▽レス始▼レス末
「グッバイ 魂の牢獄(GS+カモナ マイ 魂の牢獄)」豪 (2004.08.27 19:59)


室内には、二つの泣き声だけが響いていた。
すすり泣くような嗚咽は、やがて慟哭へと変わる。
聞く者全ての心を張り裂かんばかりの哀切に満ちた叫び。
互いに抱き合いながらも相手を意識する事なく、
ただ己が哀しみに溺れている二人。

横島の使った文珠『混』と『合』
確かな結果を齎したそれは、同時に哀しみをも生み出した。
幽壱は、心を得た彼女は、横島の体で涙を流し『横島』の不在を嘆く。
愛し、愛され、愛を知った彼女は、
今、その存在故に苦しみ続けている。










けれど――――――――――――



止まない雨は無いように
明けない夜は無いように

涙には限りがある。
哀しみには終わりがある。
いつまでも、落ち込んでばかり入られない。

彼等彼女等に似合うのは、朗らかな笑顔と胸躍る笑い声。
そして、馬鹿馬鹿しいほどにご都合主義な展開だ。
だから、悲劇の時間は終わりにしよう。



これからは――――――――――喜劇の時間だ。



さぁ、耳を澄ましてみよう。
そうしたら聞こえるはずだ。
こんな時、彼なら一体何と言う?










『あー、死ぬかと思った』

「「・・・・・・・・・・・え?」」















その声が聞こえたのはどちらが先だったか。



「・・・・・・・・あ、あの、いきなり何を」

「よ、横島さんっ!!?」



おずおずと聞いてきた祥子を無視し、多大極まる混乱と共に叫ぶ幽壱。
声に含まれているのは、喜びと怖れとの混在した感情。
もし予想が当たっていれば、これほど嬉しい事は無いが
反面、外れていたならば、更なる絶望に突き落とされる。




「いるんですかっ!其処にっ!?
 いえ――――――――此処に!!?」



自分自身の胸を見つめて、切迫した口調で問い掛ける。
そんな彼(彼女?)の姿に、祥子はうろんな目付きを向ける。
そう、見てはならないものを見ているような視線で。
心持ち距離を置きつつあるのは、気のせいではあるまい。
それでも、持ち前の優しさを発揮し、勇気をもって語りかけた。



「あのー・・・・・・・・・
 私も今現在直面している最中なので
 好きな人がいなくなった悲しみは解るんですが
 でもやはりそれでも自己同一化はいくらなんでも不毛かと」



どこか棒読みなのは、蘇って間もないせいに違いない。
そんな彼女には全くもって関係無しに
幽壱は横島との意志伝達に成功していた。
―――――――体の中に残っていた、横島の魂との。



『いやー、てっきり死ぬかもと思ってたんだけどさー。
 何とか助かって良かったよ、あっはっはっは』

「笑いません笑えません笑ってる場合ですかコレがっ!
 だいたい助かってなんかいないでしょうっ!
 横島さんの意識があるとしても、
 体の支配権を持ってるのが依然私という事は、
 憑依しているようなモノなんですよ!
 よりによって横島さんの方がっ!!!」

『いやー、他に方法を思いつかなかったし。
 美神さんに相談する暇も無かったしなー。
 どっちにせよ、相談なんか出来ないだろうけどさ。
 ほら・・・・・その・・・・・・・ヤっちまったし』

「そ、それにしたってですねぇ・・・・・・・・
 そ、それに、夢うつつで聞こえたよーな気がする
 アノ独白は一体何だったんですか?」

『ん?アレか?
 別に嘘は言ってない筈だけど?』



もうお別れ――――――――確かに鏡を通してしか顔を見ることさえ出来ない。

いつもお前と一緒―――――――体が一緒なんだからそりゃぁ一緒だろう。

ゴメン―――――――――幽壱が主人格という事は・・・・・・・・・



『というわけで、美神さんへのフォローは任せた。
 あの人なら、ひょっとしたら何かウラワザ知ってるかもしれんし。
 あと、俺の代わりにバイトとかよろしく』

「――――――――っ!!!!?
 横島さん、私を魂から殺す気ですかっ!!!
 肉体的にはともかく、精神的にストレスで死ねますヨッ!!?」

『・・・・・・・そこまで。
 声が裏返るほど嫌なんかオイ』

「美神さん達への説明だってキッツイですし・・・・・・・
 あと、いくら美神さんでも魂をどうにか出来るとは思えないんですが。
 ・・・・・・その・・・・・ルシオラさんの時も・・・・・・・・」



横島の傷を想えば、あるいは聞くべきではなかったのかもしれないが、
状況が状況であるため仕方が無い、と己に言い聞かせる。
何せ、自分の命もかかっているのだから。かなりマジレベルで。
意外にも、横島は平然とした口調で言い返してきた



『俺がこうしている事からして、あん時とは違うだろ?
 今回使ったのは、力の流れを完璧にコントロール出来る文珠。
 更に、補ったのは体に左右される事さえある人間の魂で。
 元に戻れる可能性は、それなりに高い筈だぜ。
 要するに、前提を変えた訳だから』

「横島さんが人間というところに若干の違和感を感じますが
 仰る事には概ね納得できました。
 つまり、横島さんは復活できるんですね?」

『前半無視して言うけど、たぶん大丈夫だと思う。
 意識が消えるような感覚も、今んとこまるで無いし。
 あるいは、多重人格みたいな感じでも・・・・・・・・』

「それは駄目ですっ!!!!!」



取り得る可能性の一つを大声で否定する。
驚きで言葉を止めた横島に浴びせ掛けるように
天井の一点を見つめながら、叫びを挙げた。










「それだと、もうヤれないじゃないですかっ!!!」











――――――――さようなら、俺の知ってる人工幽霊一号。

――――――――そしてこんにちわ、何だか仁王立ちしてるキミ。



「・・・・・・・・はっ!?
 いえこれは何といいますかそのあのええと青春!
 そう青春のせいなんですよ!きっとたぶん恐らくはっ!
 『青い春』なんて何か響きエロいですよねそう思いませんか横島さん!!」



わたわたと虚空を掻きながら言い訳をする幽壱。
言い訳になっていないどころか、
墓穴を掘り進んでいるのに気付くのは何時だろう。
その様子に、横島が感じているのは
呆れか、はたまた愛しさか。

さて、この部屋にいるのは一人だけではない。
置き去りにされて、すっかりお忘れかもしれないが
何処かへ逃げる事無く、祥子もちゃんと此処にいるのだ。
先程からずっと効果無き説得を続けていた彼女は
肩で息しつつ、一人漫才を続ける男を見つめていた。
焦点が遠くなりつつあるのは、彼女にとっての心の距離か。
しばしの間、そのままで。
少しの時が、過ぎた後。
ゆっくりと俯き加減の顔を持ち上げた時
その瞳の奥では、新たなる炎が燃え盛っていた。



「貴方を!きっと更生させてみせるわっ!!!」



どうやら彼女も無事に生きる目標を見つけたようだ。
たとえその方向性が豪快に間違っていたとしても。










これからの日々に苦難は在ろう。



かたや、横島の体を持つ女性――――――幽壱。

ただでさえ、人としての生を知らぬ彼女。
生れたばかりとも言えよう心は
横島と同様の生活に耐えられるのか。
横島が生き返られるか否かも定かではない。
そんな毎日は、如何程の苦しみか。



かたや、現世にて蘇りし女性――――――祥子。

彼女の場合、より単純でいて根が深い。
人生で誰もが味わう、愛別離苦の悲しみ。
今は目先の目標に気が向いているが、
解消してしまえば、また現実が襲ってくる。
愛した人の死という、冷たいまでの現実が。
その時、耐え切ることが出来ようか。



此処は無変化の牢獄ではない。
もはや完全に魂は解き放たれた。
だから、あとは己の脚で歩かねばならぬ。

哀しむも、苦しむも
愛しきも、嬉しきも
全て心の有るが故
全て命の在るが故

諸行無常こそ世の理
千変万化する日々の中
抱き締められるは己が命

ならば進むが世の定め
たとえ行く先見えずとも
立ち向かわねば立ち行かぬ

未来の果てに、幸福を掴むも
中途において、不幸に酔うも



全ては己が裁量次第
何処へ至るも己で決める
それこそ生の醍醐味で



きっと――――――――――それが、生きるという事だから





△記事頭
  1.  おおおおッ!! ギャグにシリアス、喜劇に悲劇、なんでもござれの万能SS作家様豪さんが企画参加してくれるとはッ!!
    いやはや、某死神執事風に言うと『感謝の極みッ』
    一時は『あ、それは無かった事に』となることに危惧していたこの企画にも、果てしなく素晴らしい光明が指して来ました。
    本当に頭が下がるばかりです。

     一件ギャグ風に見えますけれども、ライトな下地を敷き、緩急をつけ、且つ自然にキャラが壊れる。 まさに職人芸。
     彼等は先へ先へと進み、きっと人生の終わりの地点で大口開けて笑うことが出来るでしょうね。
    本当にどうもありがとうございました。

     さて、あと確認しているのは翔さんとzokutoのSSです。
    勿論、まだまだSSの投稿をしてくださいましても問題無いですので、どうかよろしくお願い致します。
    zokuto(2004.08.27 20:30)】
  2.  ワ〜イ豪さんだ豪さんが帰ってきたぞワ〜イ♪
     久しぶりに豪さんのSSを拝読させていただきましたが、見事ですねえ。このドンデン返しはさすが豪さんです。

    >それだと、もうヤれないじゃないですかっ!!!
     つまり、それだけ病み付きになってしまったと(^^)。

     それでは失礼しま〜す。
    武者丸(2004.08.27 20:40)】
  3. 嗚呼、あの悲しい結末も豪さんの手に掛かっては壊れになるしかないのかw
    笑わせて頂きました^^
    破壊神様に拍手(ぉ
    ノ定(2004.08.27 21:33)】
  4. なるほど!!本来祥子さん用の体は祥子さんのもんにして、幽壱は横島の中に避難させてるんですね。結果横島が奥にひっこんだ形になってしまったと。
    ということは、幽壱用の体調達して横島に体を返せばなんの問題もなし!!!ていうか祥子さんに体から出てってもらって幽壱がまた入ればいいじゃん!!元々問題だったのは「霊力の供給源」と「魂が二つ中途半端に混ざってること」なんだから。前半は横島で解決。後半もすでに分離してるから問題なし。祥子さんはようはさっさと転生して会いに逝きたいんでしょ?だったら幽壱に体わたしてあとくされなく往生すりゃあいい。幽壱と横島はそれぞれの体にかえってオールオッケー!!
    九尾(2004.08.27 22:29)】
  5. >――――――――さようなら、俺の知ってる人工幽霊一号。

    >――――――――そしてこんにちわ、何だか仁王立ちしてるキミ。

    何でだろう、ボク、頬を熱いものがつたっていったよw(爆
    いかにもGSらしいノリで楽しめました^^ こうして体のある人工幽霊壱号も事務所の面々に迎えられていくのでしょうねw
    ギャグキャラとしてw(爆死)
    (2004.08.27 23:22)】
  6. 全編を通しで読み、ふと思いついたネタを書いてしまいました(笑
    いやー、勢いって怖いですね(オイ
    でわ、レス返しですー


    >zokuto様
    一つ一つ読んでた時に思いついたネタは、先に書かれてしまい
    最初はネタが不在だったため、企画参加の予定は無かったのですが
    全編を通して読むと、新たな電波を受信する事が出来ました(笑
    悲劇も喜劇も紙一重、死ねば悲劇で生きてりゃ喜劇
    そんな考え方を根幹に据えて、彼女等を先に進ませてみましたです

    >武者丸様
    根こそぎひっくり返すのが好きな物で(笑
    心が目覚めかけた時に、あの体験ですから
    確実に魂へと刻み込まれたのではないかと愚考しております(マテ

    >ノ定様
    あの結末から何故にこうなるのか、自分でも不思議です(オイ
    まぁ、悲劇は壊して何ぼですから(違

    >九尾様
    そんな感じですね。説明有難うございます
    ただ、祥子さんに関しては、今を生きている以上
    ちゃんと人生を遂げるべきかなー、とも考えてたり

    >翔様
    そんなに感動していただけましたか<どの口が言うか
    生死をかけたギャグこそ、GSの基本なのかもしれません
    ただ、其処らへんの匙加減が難しい所では有りますが(汗
    今回は成功のようで良かったです
    (2004.08.28 11:19)】
  7. 遅いレス失礼します。

    >「それだと、もうヤれないじゃないですかっ!!!」
    …魂は肉体の影響を受ける…といいますが…
    どうやら幽壱さんも早速…(笑

    矢張り気になるのは事務所の面々…
    其々の反応は勿論、一応中身は女の子な横島君(幽壱さん)は、これからも同じ様に扱使われ、散歩で引きずり回され、修羅場に捲込まれ、そのとばっちりを一身に受ける生活が続くのか?
    …そしてそれに中身の幽壱さんは、耐えるコトが出来るのか?(笑
    偽バルタン(2004.08.29 01:19)】
  8. >偽バルタン様
    一応、刷り込みのよーな所もあるのですが
    まぁ、もとが横島君の体ですからねー(笑
    中身が彼女であっても、外見が横島君である以上
    少なくとも最初は同様の扱いを受ける羽目になるでしょう
    暫くの間ですので、多分、恐らく、紙一重で絶えられるのではないか、と(オイ
    (2004.08.29 08:20)】
  9. 最後を綺麗にまとめればいいというものでわ(笑)
    幽壱もいろいろと、たまっていたんでしょうなぁ(なにが)
    米田鷹雄(2004.08.29 17:39)】

▲記事頭


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