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「堅牢なる独房より出でし者の記述(GS+カモナ マイ 魂の牢獄)」zokuto (2004.08.29 19:04/2004.08.29 19:54)




  『後世のために明かす、横島忠夫という人物を激震させた事件の本人による独白手記』


                   筆記:横島忠夫
                      及び、渋鮫人工幽霊一号








 私はこれから、このちっぽけなノートに私にとって大切なことを書き記す。

 恐らく私の半生が、ここに書き込まれる。

 私の跡を継ぐもの達が、私の周りにおける特殊な環境をより良く理解できるようにするためだ。







 今、私は私に課せられたロールを遂行している。

 彼に助けてもらったその命、彼の代わりに全てを注いで彼の遣り残したことをやらなければならなかったのだ。


 ・・・・紹介が遅れたが、私の名は『横島 忠夫』

 本当は『渋鮫人工幽霊一号』と言う。


 初耳のものが多いだろうから・・・・と言っても今現在この二つの名を持つという特殊な状況を知っているのは私だけだから、初めてこのノートを読む人ならば、誰であろうとも私が二つの名を持った真実を知る物は居まい。




 それというのも、本来の『横島 忠夫』という名の持ち主が、私に与えた影響が普通の人の並ならぬものであるからだ。


 まず、自分で書くのもなんだが、この極めて特殊な環境において、普通の人が理解することに足りるようにするためには、私の出生から書かねばならないだろう。

 前述にもあった通り、私の本当の名は『渋鮫人工幽霊一号』だ。

 常人らしからぬネーミングセンスを雄弁に語るそれを付けたのは、私にとって唯一無二の肉親であった渋鮫男爵だった。

 彼は、嘗ての恋人『祥子』を蘇らせようとした愚行を行った。

 部分部分の死体を組み立て、独自の技術を使い、人工霊魂の精製と反魂の法を組み合わせた秘術をあみだしたのだ。

 世紀の大錬金術師、神も悪魔もうらやむ頭脳を持ったドクターカオスが最盛期に研究に腐心し、長年の研究を重ねに重ねた結果、1回しか成功したことのない人工霊魂精製。

 よほど好条件でなければ、失敗率が指数関数ばりに跳ねあがる反魂の禁術。 

 凡百の霊能科学者・・・・信念はあったものの、才能はそれほどでもなかった彼には、完全なる人工霊魂など作れるわけがなかった。


 しかし、なんの因果か・・・・成功するはずも無い実験に、比率は狂っていたものの新しい魂が産まれたのです。


 それが、私・・・・



 私は産まれて来しときから、何らかの罪を背負ってきました。

 渋鮫は、本当は私という存在より、嘗ての恋人『祥子』という相手を望んでいましたが、結果産まれてきたのは私という異質な存在。

 無論、彼は私に親と娘のような関係で愛情を注いでくれた、けれども、心のほんの隅で私をよかれと思っていないことも・・・・私は幼いながらも肌で感じていた。

 そのとき彼は私にとって唯一無二の存在であったし、彼もそのことで深く悩んでいたようだから、


 そして、やってきたひずみによる崩壊の始まり。


 元々産まれてきただけで儲けものであった私の魂が、生きる為に必要ななにかが欠けている為、崩壊を始めた。

 そこで渋鮫は、私を地脈流れ込む部屋へと居れ、なんとか方法がないかと模索しながらも・・・・やがては老衰で天国へ召されてしまった。


 そして、長きに渡る孤独な時間。

 幸い、地脈のエネルギーが私に流れ込んでくれ、それなりに生きていくことが出来た。

 しかし、それにもやはり体を維持し続ける為のエネルギーとしては足らず、ついに限界を向える時が来た。

 もとより、人間と同じような肉体を持った私が、例え霊力に過敏にできているとは言え、ほんの少しのエネルギーだけで存在していく事はできない。

 そこで渋鮫が残してくれた館を使い、とある霊能力者から波動エネルギーをもらう事にすることにした。


 幾多ものデータを集め、その中で最も霊力が突出したもの・・・・その役を当時の時のGS『美神 令子』につとめてもらう事にした。

 こちらの提示する条件は、本来の館の施設のおおよそ七パーセントほどしかない居住所の管理。

 相手からは、ただ波動エネルギーをもらうということのみ。

 ごく平等の取引。


 しかし、そこにイレギュラーというものが存在していた。


 とある青年。

 その青年が、私の運命を大きく狂わせてしまったのだ。

 もっとも、その狂い方が私にとっての絶望とも救いとも言いきれない微妙なものであったが。

 青年の名は『横島 忠夫』

 そう、私の偽りの名はそこから取られたものである。

 それにあたっては少々ややこしい事情があるのだが、どうか聞いて欲しい。


 なにはともあれ、彼が私にとって大きな存在であったことは認めよう。

 彼という人間は、何故か人外の者達・・・・それもとりわけ異性に好かれやすい体質の持ち主だった。

 もっとも、私が見ている以上、人間にも好かれていたようではあるが。

 それはさておき、かく言う私も、彼に思うところあったのだ。

 私は女、彼は男と言えば、どういう感情を持っていたのかわかっていただけるだろう。

 自慢ではないが、私は人工霊魂。

 正規の方法でこの世界に留まっては居ない存在。

 その自分は彼と結ばれることは一生ない。

 けれども、長い時間を独房で過ごし、心はもう麻痺していた状態から、暖かな光をもたらしてくれた彼。

 特に何をするわけでもない。

 ただ居ただけ、ただ存在を感じただけで、私の心は最深層に沈降しつつあった感情が再び浮上してきたのだ。

 されど、先ほどのように私には分不相応な存在。

 毎日毎日、近くに感じながらも会おうとは考えもしなかった。

 そんなあるとき、彼に自分の存在を気付かれてしまった。

 まったくもって、気付かれ方が今でも思い出しただけで顔から火がでそうになるほど恥ずかしいのでここでは割愛させてもらうが、運命の悪戯か、私と彼は互いの存在に気付いてしまったのだ。


 ・・・・非常に愚かなことをしたと今でも悔んでいる。

 あのとき・・・・彼に私の居る場所への行き方を教えたばっかりに・・・・
































 ・・・・すまない、涙が紙面に零れ、筆記する条件が極めて悪かったので上にスペースを置かせてもらった。

 大丈夫、今は非常に平静を保っている。

 話を戻すことにしよう。

 なにはともあれ、彼は私が居る独房にわざわざ足を運んでくれた。

 私もその代償として、私とこの館の記憶の全てと父、渋鮫男爵の記憶の一部を払った。

 彼は、それにより私をこの牢獄から出す方法を知った。

 それは私が『愛』を知ること。


 ・・・・愛は人が生きていくうちに必要なものだ。

 無論、その愛は極めて傲慢且つ欺瞞に溢れた愛などは全くも、微塵に、含まれていないことを前提とする。


 この世には絶対無二の孤独者など居ない。

 そもそも、孤独者には孤独という概念はないだろう。

 もし、その概念があったとしたら、その概念の伝達者と縁があることになる。

 それは極めて矛盾を孕むものなのだ。

 私の場合、その縁の発生を上手く形成できないのである。

 たしかに知識の遺伝や、肉体的精神的繋がりがあるものの、魂の欠陥によりそれを認識することが出来ない。

 それにより真の孤独というものを常に味あわらせられることになった。

 常にエネルギーと緩和策を行使していなければ、心霊的ストレスへと変貌し、軋轢に耐えきれなくなった魂の崩壊。


 ・・・・先にも述べたように、それを遅延させるため、渋鮫は私を牢獄に居れたのである。

 もうおわかりになっただろう。

 そう、人間のもっとも強固な『愛』

 これを得る事により、魂の欠陥が完全に修復され、私は解放への一途を辿る事になる。


 ということで、彼が私の姿を見てまず最初に言った言葉・・・・

 「それが、愛だ」

 もともと口足らずな彼であった。

 本当ならば、本心はもっと深く考え、感じているのに、それを言葉に表現出来ずに他人から誤解を受けることが多かった。

 誠に遺憾ながら、彼は不幸・・・・いや、不幸ではなく不運な性格であった。

 だがしかし、彼に強く抱きしめられた私は、彼のその言葉だけでもう失われたピースを取り戻す感触を感じていた。







 ・・・・かくして、そのまま自然な成り行きで2人は、粗末なベットであるが愛を紡いだのだった。

 しかし、幸せはそう長く続くものではない。

 賽を投げたのは、横島による悲しいまでも切ない自己犠牲行動。


 ・・・・言い忘れていたが、横島忠夫はゴーストスイーパーだった。

 選ばれた人間しか扱えぬ霊能力を駆使し、悪霊や悪魔を敵に技や力で立ち向かう現代のエクソシスト。

 その彼の持った特殊技能は、文珠の精製。

 文珠とは、キーワードをビーダマ大の霊力球に込め、爆発させて効力を持つ霊具。

 彼の場合は漢字を込めて使っていたようだが、それを発動させた。


 入れた文字は『混』と『合』

 私の奥底にわずかに存在していた、渋鮫の嘗ての恋人の魂。

 それを救う為、自らの体と魂を投げ打ったのだった。

 私の魂は、その際、横島の体に吸引され、その魂と混じる。

 また、一体としての祥子の魂は、横島の体から移動してきた横島の魂で補われ、1個として成り立った。




 つまり結果として、

 横島の魂 は、 一部 横島の体 に残留、 残りは 人造肉体 へ移行。

 私の魂 は、 全て 横島の体 へ移行。

 祥子の魂 は、 全て 人造肉体 へ残留。


 これでおわかりにいただけただろうか?

 くどい用に説明するが、これが一番ややこしい部分である。

 何しろ、自分でも色々と文献や色々な物を辿り、その瞬間に何が起こったのかを推測しているのだが、時折自分でもわからなくなる。

 しかも、融合に際して使われたのが、極希少霊具である文珠なのだ。

 前例などあるわけはない。



 結果として、私は横島になり、祥子は蘇り、横島は私と祥子の魂の中に溶けてしまった・・・・と結論を出すのが妥当だと思われる。


 そして、その結果。

 私は、愛しき人を失い、彼の者として生きることを強いられた。

 だが、絶望に打ちひしがれる時間はない。

 彼は人気者だったゆえ、彼が居なくなったと言うとたくさんの人が悲しむ。

 別に自分だけが恨まれるのはよい。

 だが、彼が命がけで救った女性・・・・祥子にも非難を向けられることだけは絶対に避けなければならない。

 その一心で、私は横島 忠夫として生きるために決めた。

 幸い、彼の体の脳は私に十分な知識量を与えてくれ、横島を演じるのにはたやすいことだった。

 やはり多少、近しい者達には違和感を感じたらしいが、少し経つと別にそういうこともなくなった。


 体が変わってしまった直後に起こしてしまった自分の失態故、厳しい管理人より強制辞職を命じられ、元居た職場を離れる事になってしまった。

 その後、関係を修復。

 もうあの場所に戻ることは出来ないだろうが、友人関係・・・・そう『友人関係』という関係に『いつまでも』保っていただくことにした。

 彼女等は、元の横島忠夫に只ならぬ感情を持っていたことを、私は知っていたからだ。

 勿論、ここで深い関係に持ち込むことは簡単だ。

 けれども、それは欺瞞に満ちた愛しか生まぬだろう。

 私の方から、そんなものは願い下げだった。



 ・・・・無論、私が全ての元凶であるのだが。















 今、自宅で祥子が寝ている横でこのノートを書いている。

 彼とかねてから親交があったゴーストスイーパー達に頼み込み、アルバイトのはしごをしている。

 確かに辛いし、危険の度合いから不相応な報酬しか貰えていない。

 ・・・・それでも元の雇い主の提示時給と鑑みて見ると高額な報酬であるが。


 はたしてこれからどうなることか。

 今はとりあえず、高校にも通い、豪勢とは言えぬものの飢えることなく祥子と暮していけている。

 勿論、高校が終わると共にどこかのゴーストスイーパーの正式な助手にしてもらうつもりだ。

 ゴーストスイーパーはとかく死がつきまとう職業。

 しかし、私はやらねばならぬ。


 彼を演じ、彼を遂行し、彼の影絵を踏みつづける。

 多分、死ぬまでこれは続くだろう。


 私が死した後にこのノートは開かれると思う。

 別に読んだからどうということでもない。

 ただ、先祖にこういう者が居たということだけは頭の片隅に残しておいて欲しい。


 別に同情を買うわけではない。

 が、本来の横島忠夫に敬意と愛の感謝を篭め、ここに書きつけてみた。









                 終












      追記


 すまない、前述に『これが開かれるのは私の死んだ後』と書いたが、実はそうでないことになってしまった。

 祥子が・・・・身篭ったのだ。

 受精が行われたのは、忘れもしないあの日。

 嘗ての私の体と嘗ての横島の体がたった1度の交わりをしたあのとき。

 本人や、周りの人達には、なんとかごまかしをしたが、一方その心では嬉々としていた。

 医者の話によると、赤ん坊は男と女の二卵性双生児。

 すっかり大きくなった祥子のお腹をさわらせてもらうと、暖かい感触がした。


 そこで、私の中に衝撃が走る。

 触れた瞬間、電撃が私の頭に流れ込んできた。

 思い出したのは、彼の者の懐かしき顔。

 厚かましいと思うが、彼女のお腹にいるのは愛しき者の転生体ではないかと推論している。



 ・・・・何はともあれ結果が出るのは、あと5ヶ月ほど先だ。










 もし、男の子が無事に生まれてきたら、祥子に『幽壱』という名前を提案してみよう。

 誠に自分勝手だとは思うが、それが採用されることを祈る。





 では、この書は、再び魂の牢獄に置く事にする。



















      追記

 無事出産。

 再三にわたり、次はないといっておきながら、再び封を開けてしまって済まない。

 では、今度こそ・・・・本当に・・・・




 この書は、幽壱に託す。






















        作者後書き


 やっと自分の分が終わりました〜。

 慣れない形のSSだったので、やたらに時間がかかってしまいました。

 一時企画倒れの危機に襲われたアフターストーリーズ祭りでしたが、なんとか数だけは足りそうです。

 それもこれもたくさんの方からの助力による賜物です。

 どうもありがとうございました。



△記事頭
  1. をぉ〜い。 タイトル違ってるぞぉ〜。

    「カモナ マイ 魂の牢獄」最終話で貴方が以下のように言ってます。

    >自由にこの後日談(指定作品名:グッド バイ 魂の牢獄)を(以下略)

    つまり、この作品のタイトルは「グッド バイ 魂の牢獄」じゃないとアフター祭り作品にならないってば・・・(汗
    ひでよし(2004.08.29 19:28)】
  2.  ええと、訂正処置を致しました。
     と、言っても、こちらではなく規約の方の訂正でありますけれども。

     訂正先にも記述した通り、このタイトル指定には大した意味はなく、また世界観を狭めたり、設定上雰囲気にそぐわない場合が多々あり、まさに百害あって一利なしという有り様でした。
     お騒がせさせてしまい、どうも申し訳ありませんでした。

     また、そのことを指摘してくださったひでよし様、当方の対応が遅れましてつまらない迷惑をかけてしまい、申し訳ありませんでした。
     これにこりずに、またこれからもお付き合いしていただければと。
    zokuto(2004.08.29 19:59)】
  3. なにやら立て続けに分別のないお子さまに絡まれてしまったようで誠にご愁傷様です。願わくば、これにこりてしまわれないことを。
    disraff(2004.08.29 20:46)】
  4. ややこしい家族ができましたな〜。親父は幽壱だった中身IN横島(名乗ってるのも横島)で生まれてくる子供は魂横島IN名前幽壱?
    しかも子作りしたのは幽壱(現在祥子の体)と横島(現在幽壱の体)。
    これってあれだ。恋愛対象が子供に転生ってやつですね。んで横島とルシオラは親子にはならなかったものの双子ときたもんだ。ずいぶんと互いの感情に苦労することになりそ〜。そもそもこの場合幽壱(現在横島)は父親?母親?わけわかんね〜(笑)。
    祥子さんにいたっては一番まきこまれてますね。復活したとたんに恋人はとうに死んでて、自分では覚えてない子作りでいきなり双子出産。生まれてくる相手は今の自分の体と子作りした相手(の魂入り)。
    ほんっとややこしくなりましたな〜。横島はつぐつぐ軽率すぎだよ。
    九尾(2004.08.29 21:19)】
  5. なるほど、こういう形式できましたか。
    状況説明をするのにはうまくいってると思いますが、ちと理屈ぽすぎるかなぁ、とも思ったり。
    さすがに、正統派EDという感じですね。
    米田鷹雄(2004.08.29 22:58)】
  6. disraff様>
     えぇと・・・・まずはどうもありがとうございます(で、あってますよね?)
     まぁ、それ云々はどうしようもないかと思っております(苦笑)

    九尾様>
     そうですね(笑)

    米田さん>
     奇をてらってみたものの、やはりダメでした(爆)
     こういうのをうまーく書くのにはやっぱりもう少しスキルがないとなぁと。
    zokuto(2004.08.31 03:22)】
  7. …あの一回で出来たのかぁ(爆
    しかもルシオラ同伴で復活…流石としか言い様がありません横島君。
    …さて、幽壱さん(身体、横島君)は、皆に真実を打明けず一生を横島君の振りして生きてくコトを決めたようですが…流石に隠し通すのは無理っぽい気もするのですが…
    特に百合子さんとか美智恵さんとかは、絶対に見破りそうな予感(汗
    偽バルタン(2004.08.31 04:29)】
  8. 偽バルタン様>
     こういう道もあるかと思いましてね。
     幸せか不幸せかどっちかわからないというのがテーマでした。
     日記ってのは断片的なもので、感情を表すところがないから、測定するところもないですが・・・・

     それにしても、今回滑りましたな。
     まあ、ココや旧夜華ではあまりない形式で書いたぶん、引かれたというのもあるんでしょうなぁ。
     結局は、自分の腕不足だけだと思いますが orz
    zokuto(2004.09.01 01:18)】

▲記事頭


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