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「病んだ心を持つ少年(まぶらほ+空の境界+零崎双識の人間試験)」sara (2004.11.03 00:54)
病んだ心を持つ少年



第六話



神城の狼来訪+変人一人(ナイアじゃないけど)




唐突だが、臨戦態勢で、式森和樹、神城凛、杜崎沙弓の三人が一人の青年を相手に対峙していた。

普段外界に興味を示さない式森和樹ですらその溢れ出る殺気の程は並を超越している、いや二人の少女のそれを凌駕しているだろう、いつもの無表情無感動の表情で敵と認識する相手に視線を送っている。

対峙する青年は神城駿司、神城家最強の男にして人外の化け物、人狼。

二十代半ば程の長身の青年で長い髪を後ろで縛り、ラフな服装で得物は何も持っていない、どころか殺気を叩きつけられても構えする取っていないのだから。

何の前置きも無く唐突に三人の前に姿を現した、殺気は一切出さずに、笑みすら浮かべて。

口を開いた。

「凛、久し振りだね、それに和樹君も沙弓ちゃんも」

それは全く敵意の無い声だった。





少し前。

“伽藍の堂”

一人の変な訪問者が蒼崎橙子を尋ねて来ていたりする、それはもう変な男が。

妙に背が高く、手足が長く、それでいて各部が細い、まるで針金のような体で長い髪の毛をオールバックにして伊達眼鏡、笑みを湛えた男。

そしてまるで似合っていないスーツ姿。

エル(エリザベート)の入ってきたときの評価は。

「変な変人じゃな」と言うわけの判らない評価だった。

で、そんな評価の下された男の名前は零崎双識、ある業界ではとても有名な男「二十人目の地獄」と称される男。

その零崎が口を開く、柔らかく、温厚そうに。

「久し振りだね、両儀式君、そう殺気立たなくてもいいよ、僕は平和主義だからね“君”が何もしなければ僕も何もしないよ、今日用があるのは蒼崎君だ、久し振りだね、蒼崎君、いつ依頼か覚えが無いけど」

零崎の言葉に式が上げかけた腰を下ろす、この男は式が全力になって戦っても勝てるかどうか、嘘はつかない種類の男だ、その点で式は上げかけた腰を下ろしたのだろう。

それッでも警戒の目を向けているが、まぁそれは当たり前だ、幹也も事務所内にいるのだし、“零崎”に気を抜くような式ではあるまい。

「フン、どうした零崎、お前がここに顔を出す必要は無いだろう、確かに久し振りだが私はお前に会いたくない」

「それがそうでもないんだよ、確かに僕も君自身に用は無いんだけどね“零崎一賊の一人”が殺された。情報が欲しいんだよ。僕の家族が殺されたんだ、因みに殺した男の名前は“神城駿司”、勿論“神城一族”の神城駿司だ」

橙子はその言葉を聴いて息を呑んだ“神城”の名前にも息を呑んだが“零崎”が殺された、その事実が、そしてこれから起こる結果に。

“零崎”は自分たちの家族、一賊を殺した人間を赦しはしない、何処までも追い詰めて殺す、それが零崎の“家族愛”らしい。

それはまさしく敵討ち、零崎を一人殺すと言うのは二十人以上いる零崎全てを殺す覚悟が必要となる、かなり裏の世界では有名なことだが、まず零崎一人を殺せる人間なんてめったにいやしないんだが。

“零崎一賊”それは裏の世界で有名な“殺し名”を持つ七つの一族の一つ、“零崎”殺し名第三位に置かれるがある意味一番嫌われ恐れられる一族。

ある意味最悪の戦闘集団、最凶の人間たち。

否“殺人鬼”集団、“零崎一賊”、彼等はビジネスでも快楽でもどんな理由でも人を殺さない。

理由も無く人を殺す、まさしく人を殺す鬼、呼吸するように人を殺す鬼、気付いたら殺す、
どうしようもなく人を殺すと言う性質を持って生まれた人間が寄り集まったのが“零崎”。

彼等は、血族ではない殺人鬼が集まって家族を作る、故に孤独たる殺人鬼達にとって唯一の同類にして家族。

そして零崎双識、零崎一賊長兄“二十人目の地獄”、彼は家族に対する愛はことのほか深い。

加えて零崎においても上位に入る戦闘力を持つ殺人鬼、彼はが人を殺せば恨みを買わない為に家族、知り合い、親密な人間全員が皆殺し。

だが、これは殺人鬼たる零崎に於いて珍しい理由のある“人殺し”だろう、殺人鬼にとっての殺人は理由が無い。

理由など必要が無い、殺人鬼と言う生物は殺人をするから殺人鬼なのだ、狼が他の動物を捕食するのに理由があるだろうか、確かに食べるためと言う理由があるだろうが、それは本能に直結した理由だろう。

殺人鬼の殺人も似たようなもの、それは性質なのだから。

敵討ちは殺人鬼たる人間のする行動にとっては矛盾を孕んでいる。

何故なら理由をもってやる殺人つまりは“人殺し”、理由も無く行う殺人“作業”、殺人鬼にとっての殺人は作業だ、息をするのと同じ、食事を取るのと同じ、眠るのと同じ作業。

そんな彼等が、唯一意味を持って殺人を行うのが敵討ちだろう。

「それで零崎の長兄“二十人目の地獄”たるお前が動いたのか、いや他のも動いているんだろうな」

そう、一人殺せば、言葉の間違いなく全ての零崎が襲い掛かってくる。

「まさしくその通りだよ、蒼崎君。僕が一番乗りだろうけど、僕の手で始末を付けたいんだよ、愛しい弟が殺されたんだからね、それで“神城駿司”の情報は?
“神城凛”はここによく来るんだろう“瞬殺姫”は、いやいや安心していいよ“瞬殺姫”は殺さないよ、その辺の事情は裏で有名だからね、“殺し名”に匹敵する戦闘集団一族、その手の情報は僕らにも回ってくるものだからね」

“瞬殺姫”凛の縮地から付けられた裏の名前、その名の通り、その速さと手口一撃必殺のスタイルから付けられた忌み名。

因みに和樹の忌み名は“貌なき戦神”、沙弓は“血染めの美姫”、和樹の無表情と圧倒的戦闘力、沙弓の斬殺というスタイルからつけられたらしい。

因みに凛の読みは「しゅんさつひめ」ではなく「しゅんさつき」なので。

自分で名乗りはしないが。

それなりに有名な彼らだった。

「知らない、と言うよりは何で私が知っていると思ったんだ、私はお前ら側の人間ではないんだぞ、確かにあっち側は呪い名の連中とは関係が有るだろうが、それだけだろう」

あっち側、と言うのは魔術師側と言う意味だろうが、橙子達のような高位の魔術師達、”殺し名”に“呪い名”、後者は言葉のまま。

「いやいや、近くにいるのはわかっているんだ、本当に欲しい情報は“瞬殺姫”が何処にいるかって事なんだよ、彼女のところに神城駿司は現れると僕は踏んでいるんだ。追いかけっこになると人狼の彼には追いつけないからね。頭を使わないと。後本当だよ“駿殺姫”には危害を加えない、噂の二人にもね“零崎”の名前にかけて誓おうじゃないか、もし嘘をついたら、僕のマインドレンデル(自殺志願)を君にあげてもいい」

と、零崎は指を橙子の目の前に立てて片手で拝むようなスタイルで尋ねてくる。

もう片方の手で、いつの間にか懐から取り出したのか異形な鋏を持ちながら。

本当に異形な鋏、両刃の刃物二つに半月の取っ手をつけ交差させて固定したと言う感じの鋏、だがその使用用途は殺人以外は考えられないだろう、鋏本来の役割など果たせそうに無い。

それが双識の愛着を持って使う武器、マインドレンデル(自殺志願)、彼がこれを譲るとまで言うのは先ず無いだろう。

それほど愛用している武器だということを橙子は知っている。

それに。

この柔和な微笑を見ている限りでは、この男が最悪の殺人鬼だとは誰も思いはしないだろう、まあ彼は最悪ではあるだろうが随分マトモな殺人鬼ではあるだろうが。

殺人鬼にマトモもヤバイも無いのかもしれないけど。

殺人鬼としてヤバイのは恐らく生まれながらの殺人鬼、双識の弟、零崎人識。

彼は本当に、自己の意識の外でさえ殺人をする、目の前に死体が転がって「あ、殺しちまった」そんな具合だ。

因みに彼は敵討ちはしないだろう、零崎でも異端である彼は兄の双識以外を家族であると認めてはいない。

それにいつか殺して、マインドレンデルを手に入れると言っているぐらいだが。

まぁ、他の殺人鬼達も似た様な所であるが、殺人鬼とはある種の災害なのだ、殺人鬼と言う猛獣に襲われる災害、運が悪いで済ませられるほどに単純な結論。

だって、理由が無く殺す殺人鬼たち、彼らに殺される人間は彼らに出会ったと言う時点で運が悪かったとしか言い様が無いじゃないか。

道を歩いて通り魔に会うよりも始末に終えない運の悪さ。

「まぁ、お前は嘘の類はつかないだろうし、本気で私と敵対する気も無さそうだしな、其処まで言うなら構わないが」

「当たり前だよ、“赤”の魔術師に喧嘩を売るほど僕は強くないし、其処の両儀式君にもね、“瞬殺姫”に危害なんて加えたら、残りの二人に僕が殺されそうだし」

まぁ、そうだろうが。

肩を竦めておどけている彼はそれこスーツの似合わない変な人だ。

「凛なら葵学園に通っているよ、もし神城の人間が凛に接触するんだったらな、だが今更神城の人間が接触してくるのか?式森と杜崎は既に潰された、残った神城にしたって時間の問題だろう。今頃、それにどうしてお前ら零崎が殺された?」

当然の疑問だろう、今の神城が凛に接触するとは思えない。

“式森”“杜崎”の一族は和樹達が逃亡を果たした後も、和樹達に追撃を掛けたが返り討ちに合い、式森、杜崎の順で滅ぼされたのだから。

式森和樹の両親、煉と和馬は杜崎の当代最強を殺し、目ぼしい使い手を殺しつくしてから果てた。

それでも腹の収まらない馬鹿が和樹達に喧嘩を売り、逆に滅ぼされた、因みに一話の冒頭のシーンは和樹、沙弓のコンビで杜崎家を皆殺しにしたところ。
凛は完全に狂っていないのは自分の一族を自分の手で今のところ滅ぼしていないからだ、沙弓は自分の母親を自分の手に掛けた時点で完全に狂気に染まった。

和樹は自分の祖父母を一撃の下に撲殺し、弟弟子まで殺した。

和樹は両親の死を悟ったときには壊れていたんだが。

神城は他よりも理性的で、逃亡後は和樹達に干渉しなかったので何もされなかったと言うだけだが、今更凛を標的に何かするとも考えにくい。

凛を標的にすると言うことは、次代最強三人を相手にすることと同義、今の神城に其処までの力は無い。

神城とて使い手の殆どは失い“神城駿司”と言う化け物を除けばマトモな戦闘力を有している人間は数えるほどしかいないはずなのだから。

「その辺は僕は知らない情報で“神城駿司”が“神城凛”を探しているといった情報があったぐらいだからね。となると神城凛のルートでしか僕が“神城駿司”を探す手段が無かったから。嗚呼、情報はありがたく頂戴するよ、それでは」

と言って、去っていた、因みに深いお辞儀をするのが長身の為、妙に似合っていたとここに追記しよう。

そして、ゆっくりと歩いて“伽藍の堂”を出て行った。

帰り際に。

「黒桐君、今度久々に酒でも交わそうじゃないか」

殺人鬼とも懇意にする、黒桐幹也何気にツワモノである。

周辺環境に慣らされただけなのかもしれないが。





で、冒頭に戻る(前回も使ったなこの手法、と突っ込んでみたり)。





何の敵意の殺気も無く挨拶する神城駿司。

だが“神城”というだけで、三人にとっては敵意の対象、しかも神城最強、三家の中でも最強の名を欲しいままにした神城の狼。

“塵処理係”神城駿司、因みに何気に忌み名が間抜けだが、神城の敵対者、邪魔者などを殆ど殺しつくした化け物。

“殺し名”第一位の連中とも一対一と言う条件ならば対等に戦えるだろう戦闘力、警戒するなと言うほうが無茶だ。

今は笑っていても、瞬き一つの後には攻撃が迫っていても不思議は無い、文字通りの人殺しの化け物、神城駿司。

三人がかりでようやく互角。

人狼の速度は凛の“縮地”に匹敵し、魔眼からの急所攻撃も当たらねば意味が無い、和樹の強力無比の攻撃も同様。

何より神城駿司は速い、速度なら凛と互角、魔眼など無くても殺す手段など精通している、攻撃技術、威力ともに劣らない。

経験なら圧倒的に劣る。

そんな相手に気が向けるならば自殺志願者だ。

和樹達は当面は死ぬつもりなど微塵も無い。





だがその挨拶から続く沈黙が数十秒も立たないうちに、駿司が張ったのであろう人払いの結界を越えて入ってくる乱入者。

似合わないスーツ、伊達眼鏡、オールバック、針金のように細長い体躯、そして神城駿司を見据える眼光。

殺人鬼、零崎一賊、二十人目の地獄、零崎双識。

既に右手に握られているマインドレンデル(自殺志願)。

それは場の均衡を潰すには十分で、この緊張に孕んだ空間をぶち壊すには十分な闖入者だった。

零崎双識はその顔に笑みを湛え、口を開いた。





「お初にお目にかかるでいいかな“塵処理係”、神城の殺し屋、神城駿司。僕は零崎双識、後は説明は要らないだろうね、零崎の名前で十分だろう」





凛と沙弓は零崎双識の名乗りに唖然とした顔で双識を眺め駿司の顔を眺めた。

何故ここに“零崎”が、彼女たちでさえその恐ろしさを知る“零崎一賊”がここにいる、そんな表情を湛えていた。

零崎は裏の世界ではあまりに恐ろしすぎる名前だから。

和樹は双識とは面識があったりするのでそれほど驚いてはいない、まぁ表情には出ないんだが、前に“伽藍の堂”に零崎双識が来たときちょうど和樹もいたのだ、両者とも性質はともかく好戦的ではないので殺し合いにはならなかったが。

双識が口を開く。

「さて“塵処理係”、一応聞こうか、間違いだったら嫌だからね。今更間違って殺人をして後味が悪いってんじゃなくて、間違ってたら面倒だからだけど」

一端呼吸を置いて。

「弟を殺したね、“塵処理係”」

双識はその問いの時にも口元に笑みを湛えていた、これは本当に確認なんだろうか。

駿司は、軽く天を仰いでため息をついて。

「ああ、僕が殺したよ、でも零崎だと言うことは判っているけど、誰かは知らんよ、名乗らなかったから」

認めた、零崎を殺したことを。

「ああでも“二十人目の地獄”、僕のようが終わるまで待ってくれないか、そう待たせない」

駿司は双識にいい、葬式は懐にマインドレンデルを戻し、口を開く。

既に背中を向けて、その様子に警戒心が無い、“塵処理係”の前と言うのに。

もしかしたらこの場で双識が今の駿司の状態を一番理解しているのかもしれない。

「まぁ、いいよ、それほどあせる話でもないし、君は逃げないだろう。それに態々僕達に負われているのに自分の妹弟子のところに顔を出したのにも興味があるし。僕は久々の再会を台無しにするほど無粋じゃない、でも見物はさせてもらうよ興味深いからね」

そういい、双識は近くのベンチに座り込み、本当に先ほどまで零れていた僅かな殺気でさえなりを潜めた。

もう完全に興味津々と言った傍観者スタイルは流石と言うべきか、その代わり身の速さは、零崎とは関係ないけど、零崎双識の変人っぷりとしては。





そして零崎双識が傍観者となり、神城駿司は再び三人に向かい合う。

やはり殺気も闘気も敵意も無い、まるで穏やかな神城駿司。

穏やかな笑みを湛えて、その目は凛を見つめていた、まるで父親のように。

双識の介入で若干拍子が抜けたが、警戒感を落とさない凛と沙弓も気がついた、何でここまで敵意が、いや暖かい、そして申し訳の無さそうな表情をするのだろう、と。

駿司は口を開いた、ゆっくりと、まるで独白のように。

「凛があの下らない考えをやらされるって時に僕は神城を離れていた、まぁ言い訳にもならないだろうけど。和樹君にも謝らないとね、僕と煉さん和馬さんの三人がいれば君の両親は生き延びれたかもしれない。あの場にいなかった僕が謝るなんて、いえたことではないだろうけど」

一つ区切り、薄く輝いている満月を駿司は見上げ、続ける。

「それに沙弓ちゃんにも苦労を掛けたね、小さい頃凛を、今思うとやり過ぎだと思うくらい鍛錬を押し付けて、いつも慰めてくれていたのは君だった、感謝しているよ、あのままだったら凛はつぶれていただろうから、君が凛の友達になってくれて嬉しかったよ、これからも凛を頼むよ。後、不謹慎だし、不道徳だろうけど、凛と沙弓ちゃん和樹の三人で添い遂げてくれると嬉しい」

また一拍置いて。

「凛、スマナイとしか言えないな、子供の頃は虐待のように凛をシゴイテ、それでも僕は自分が凛の兄だと思い上がっていた。小さかった君を、赤ん坊から見続けて、最後には何もしてやれなかった。後罵るかもしれないけど僕は君の両親を殺して来たよ、あまりに赦せなかった君への仕打ちは、神城はもう終わりだ、これで神城、式森、杜崎三家とも断絶、凛を追うものもいない、和樹君と幸せになってほしい、僕の我が侭だ」

まるで遺言のような。

「後和樹君これを」

駿司は和樹に無造作に近寄り、和樹もそれに警戒せず。

「煉さんの手甲、君が持つのが相応しいだろう、後和馬の小太刀、使ってやってくれ」

左手用しかない漆黒の手甲と、業物の小太刀を和樹に渡し、耳元で何かを喋りそれに僅かだが和樹が反応する。

次は沙弓の元へ。

「人狼族の秘石、君の魔眼の力を高めてくれるだろう、凛を助けてやってくれ」

沙弓に何の装飾も無い鎖の付いた石のネックレス、それを渡してやっぱり小さな声で呟く。

「凛、これを受け取って欲しい、僕の愛刀、月詠と十六夜、凛には扱いづらいかもしれないけど」

一つは大振りな打刀、一つは小振りな小太刀、華美な装飾は無い刀、それでいて刀身は美しい刀。

その動作はまるで自分の遺品を分配するような作業。

そして駿司はおもむろに凛の頬に手を伸ばして、頬を撫でた、顔全体を手で包むようにゆっくりと優しげに。

「じゃあ、和樹君、凛と沙弓ちゃんを守るんだぞ」

そう言って凛から離れた。

「駿司!!」

離れていく駿司に凛が叫ぶ、其処に警戒感は無い。

「どうしたの凛」

「お前は、何で私にこれを、これはお前の連れ合いの形見じゃないか」

凛は月詠を突き出して叫ぶ、確かにそれは遠い昔、駿司と連れ添った人間の女性が愛用した打刀、死後駿司が使い続けた刀。

受け取れるわけが無い、それではまるで。

「貰って欲しいからかな、凛に、最後までロクデナシだった兄の、最後までロクデナシな行為だよ、我が侭かな、これは」





そして駿司は凛達に背を向けて双識に顔を向けた。

そんな駿司に凛は叫ぶ。

「何で、何で、お前はこんなことをする、私が苦しむだけだって判ってるだろうが、駿司。
何を考えているんだお前は」

そんな叫びに駿司は応えない。

「じゃあ“二十人目の地獄”、始めようか、でも場所を変えてくれないかな、ここじゃあやりづらい、そちらもそうだろう」

双識はチラッと凛を眺め。

「いいのかい、家族は大事だよ、お兄さん」

それに駿司はやはり応えなかった。

「まぁ、いいか。それに“塵処理係”僕に嫌な役回りをさせるものだね、弟を殺した理由は尋ねないけど、まるで僕をこの場に来させるみたいじゃないか、君を殺す為に」

ふふ、まるで僕は悪役で君の妹に恨まれる、それでも妹さんは僕は殺せないからね。

そんなことを呟く双識に。

「そんなつもりは無かったんだけどね、どうせ数日後には・・・・・・・・
どこかの山の中でくたばろうと思っていた、看取ってくれる相手がいるだけ幸福だよ、僕は」

凛の叫びは続いていた、もう意味を為さない叫びを、それを沙弓が後ろから羽交い絞めにして取り押さえていた。

そして凛の耳元で何かを呟く。

そして凛は更に激しく、絶叫と言える叫びで吼えた。

「お兄ちゃん、死ぬな、死んじゃ嫌だ、まだ必要だ、私にはお兄ちゃんが必要だ、駿兄!!!」

その叫びで駿司が僅かに震え、呟いた。

「嗚呼、死ぬ前にまた聞けた、やっぱり僕は幸福過ぎる、過ぎた妹だ」

一筋だけ頬を伝う涙が双識にはみえ、呟きは聞こえなかった。

「じゃ、いこうか零崎双識」

そう言って駿司は消えるような速度でその場を去り、双識もそれに続いた。

後には泣きながら叫び続ける凛と、凛を押さえつける沙弓。

そして駿司の消えた方向を見つめ頭を一回だけ下げた和樹がいた。

僅かに「わかりました」と呟いた、本当に唇だけの動きで。





郊外の森の中、駿司と双識は対峙し。

駿司は無手、双識の右手にマインドレンデル(自殺志願)。

そして双識は宣告した、死神の台詞を。

「零崎を始めようか」

最強の古狼と最凶の殺人鬼の殺し合いの幕開けだ。





後書き。

今回完全にシリアスです、初挑戦に近いですねここまでのシリアスは。

零崎双識、知らない人も多いでしょうから一応紹介だけを、講談社NOVELSの「零崎双識の人間試験(著者西尾維新)」に出ていたキャラで、最近読んで気に入ったキャラです。

もしかしたらその作品、作者のキャラが出てくるかもしれません、零崎人識やら零崎舞織、病院坂黒猫、哀川潤にいーちゃん、玖渚友あたりが、知らない人が多いかもしれませんが。

次かその次に出てきます、這い寄る混沌(デモンベイン)が。

ではレス返しです。

>九尾様
橙子も結構いい加減な人ですから、でもそろそろ大活躍です、案外責任感とか仲間意識はかなり高い人なんで、その辺を頑張りたいと思います。
因みに浪費癖を直すのは多分無理です、きっと。

原作では最後のほうしかラブラブじゃないんですけど、気に入ってくれたなら嬉しい限りです、特に式は案外原作の性格だと付き合いだすと可愛くなるかなと思って書いてみました。

>1トン様
その通りでしょうね、幹也君が泣きつく手前で施して逃げられないようにと、まぁ式がいる限り、其処まで自由にはならないでしょうけど。
橙子さん、趣味には暴走しそうな人だと思ってるんですよ、趣味・・・・・・・ふふ

あと橙子ですが自分でもわからないといっている以上、あれは二代目か三代目の肉体ではないかと考えています。

>管根様
同意見です

>逆行メガネ様
完全に勘違いしていました恥ずかしい限りです。

>D,様
橙子の魔法回数はかなり化け物レベルですし、使用法も夕菜のような垂れ流しではなく凝縮、精錬されているレベルです、一応は橙子さんはその世代では三人しか関せられない三原色の“赤”を関する魔術師ですし。
取立てかち合ったのは書いたんですけど、無理でした(御免なさい
労働組合はいいかも、組合長は和樹がいいかもしれません、口で騙されることは無いでしょうから。
玖里子さん、ああ惜しい人を・・・・・・・多分出番ありますよ、多分

>33様
すいません書き方が拙かったです、戦闘は万能的にこなすと言う意味で特化と使っています。
和樹君は性格配役上仕方ないです、でも私の小説主人公しゃべらないなぁと思ったり。

>ファルケ様
違う展開になりました、意表をつけたのなら少し嬉しいですかね。




△記事頭
  1. ・・・この殺人鬼の集団、夜華のころ一度だけ、出演してる話を見たことありました。弟のほうでしたけど、間違いないです。「気づいたら殺してた」ってのがすごく印象に残ってますから。
    ・・・そういう集まりだったんですね。すごく気持ち悪かったことだけ覚えてます。まぶらほのメンバーの気持ちよさに対して、無茶苦茶後味悪いです。
    九尾(2004.11.03 01:28)】
  2.  駿司もバカな一族のなかで唯一のマトモだったんだねぇ・・・・
     そして和樹達への餞別・・・・
     死出の覚悟・・・・
     最後は狼としての生涯をとじようとするとは・・・・
     男ですねぇ・・・・
     でも・・・沙弓が壊れた理由は身内を自分で滅ぼしたからですか・・・・そして凜が壊れなかった理由は身内が生きているからと・・・・駿司が死んだら狂気の世界へご招待ですかねぇ・・・・

     最後に!!和樹達の戦力アップ!!!
    D,(2004.11.03 01:28)】
  3. 意表はつかれましたが、納得は出来ました。確かに、あの三人なら敵対者を滅ぼすのは当然ですよね。
    次回は駿司が死んでしまいそうですが、…コレで凛は和樹・沙弓と同じく「完成」することになるのでしょうか?
    ファルケ(2004.11.03 06:46)】
  4. まさか戯言シリーズまでくるとはおもいませんでした。
    それから、できればいーちゃんと玖渚友を出してほしいです
    沙耶(2004.11.03 17:48)】
  5. 人ごみの中を歩く。少しばかり鬱陶しいが、まあ、いつもの事。
    ふと、右手が勝手に動いた気がした。それと、誰かが倒れた音も。
    音のほうはどうでもいい。右手も、まぁ、傷ついてはいないようだからいいだろう。
    それでも何となくマッサージしながら、その場を立ち去った。
    その日の夕方、ふと思った。
    「あれ?ひょっとしてあの時、殺っちゃった?」

    …てな光景がふつーに連想されたり。こんなカンジです?>気付いたら殺してた
    MAGIふぁ(2004.11.03 21:34)】

▲記事頭


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