▽レス始▼レス末
「蛇ノ妹 その終(GS)」桜華 (2004.11.09 01:03)

 蛇ノ妹
 その終



 自宅にて、美神令子は飲んでいた。
 時刻は午後9時。職業柄、この時間に自宅にいることはまずない。
 外は月が明るく、雨の降る気配もない。まさに稼ぎ時。少し肌寒いのは、季節柄仕方あるまい。
 しかし美神は、仕事をする気にはなれなかった。入っていた仕事を全てキャンセル、あるいは延長し、自宅に戻って飲んでいた。
 コップを一気に傾ける。グラスの中身が全て消え去り、灼熱感が喉を犯す。
 ついた溜息は、強い酒気を帯びていた。

「俺が守ります、か……」

 昼間、事務所での丁稚との会話を思い出す。
 以前に話題になった、夢のシンクロ。その相手を見つけたという報告だった。
 興味はあった。彼とシンクロできるほどに酷似した霊波を持つ存在が誰なのか。
 彼の出した答えは、メドーサだった。
 月で、彼の霊波を吸収し若返ったメドーサ。再生の際に、彼の霊波を核としたらしい。
 確かに、それならばシンクロも納得がいく。霊的には、転生したメドーサは彼の娘と言えるだろう。前世とは赤の他人なのだから、現在のメドーサに害悪がないのなら、Gメンも処理はすまい。
 しかしながら、神界で指名手配されていた魔族の転生体だ。野放しにするわけにもいかない。よって、神・魔界が信用の置けるGSの保護下に入れ、これを監督する。
 なるほど、彼の出した結論は正しい。そして彼ならば、神・魔界の信用も厚い。問題はないだろう。
 だが、美神は反対だった。
 彼はGSとして、まだまだ未熟だ。
 実力はある。大戦の中核で生き抜いた、その経験も評価する。だが、知識に乏しい。
 監督するにあたり、戦闘力は必要ない。対象を的確に指導できる知識が必要なのだ。
 その点、自分ならば問題ない。単体の戦闘力としては彼に劣るが、勝負における機転を含めた強さでは上だと自負している。神・魔界からの信用も問題ない。少々金にがめつくはあるが、現代社会で生き抜くにはこのくらいがちょうどよかろう。
 自分のほうが適役だ。
 美神は、昼間、そう主張した。
 彼は、頑として譲らなかった。自分も譲らなかった。
 議論は平行線を辿った。折れたのは美神だった。
 文珠20個を出せ。それで手を打ってやる。
 できるはずのない事を条件とした。
 彼はやった。20個の文珠を、即座に出してみせた。直後に倒れたが。目覚めるまで、キヌがとても心配していたのを思い出す。
 条件を出したのは自分だ。認めないわけにはいかなかった。

 恐かった。

 メドーサの保護を、美神は彼に任せたくなかった。そんなことをさせたくなかった。
 なぜなら、似すぎているから。メドーサは、彼女に似すぎているから。
 かつての敵。転生体。彼の娘。
 詳細は違えど、要点は一致する。
 彼は気付いていないかもしれない。でも、意識、無意識を問わず、彼はメドーサに彼女を重ねているだろう。
 彼はきっと、メドーサを守り抜く。己の身など省みず。
 それは、彼女が彼に行った行為だ。ならば、行きつく結末が同じな可能性もある。
 あれから、彼は変わった。表面上は同じだけれども。失うことを、何よりも恐れるようになった。
 仕事で自分やキヌが危機に直面したときの彼の形相は、筆舌に尽くしがたい。
 喪失を恐れ、抵抗し、そのために自らの犠牲を厭わない。
 彼はなぜ、気付かないのだろう。どうして、気付いてくれないのだろう。
 そうして彼を失うこと、それこそが、美神の最も恐れていることだというのに。
 だから美神は、メドーサを保護させたくなかった。これ以上、彼に背負わせたくなかった。
 しかし、彼は背負うことをやめない。今後もし同じようなことがあれば、同じことをするだろう。
 それは、彼の魂に刻み込まれた傷だ。それが癒えない限り、彼は背負うことをやめないだろう。そしてその傷は、決して癒えることはないのだ。

「……なんでもかんでも、背負うんじゃないわよ、バカ」

 外を見る。夜景がきれいだった。
 この景色のどこかで、彼は笑っているのだろうか。メドーサの転生体や、タマもやシロ、ケイ。妹達に囲まれて。
 それで、彼は幸せなのだろうか。
 それで、彼は幸せなのだ。
 過ぎたことを悔やんでも仕方がない。いまさら保護権を奪えるわけでもなし。ならば、もっと前向きに。
 彼が無理やりにでも背負おうというのなら。
 その荷を少しでも軽くするのが、自分のすべきことだろう。
 彼にはもう、嘆いてほしくはないのだから。
 グラスに酒を注ぎ、一気にあおる。

「……がんばれ、横島くん」

 景色のどこかにいるだろう彼に向かい、美神は小さく呼びかけた。


===========================================

 というわけで、蛇ノ妹はこれにて終了です。
 ラストは雨音も横島も出ず、美神の一人舞台ですが。雨音がメドーサの転生体であることを示すためと、あと、ルッシーと雨音の類似性を強調しときたかったので。原作主人公だし、たまには書いてやらにゃぁ(笑)


 さて、ここからは裏話。

 その1.

 この話、どうして始まったかというと、たかすさんとのチャットでの一言が始まりでした。

「でも私、チビメドって嫌いなんですよねぇ」

 この私の一言から、この物語は始まったのです。
 といっても、誤解しないでください。私、チビメド自体は大好きです。ただ、チビメドって名前が……

「学校に行ったら名前でいじめられるじゃんか! メドかメデュでいいじゃんよ!」

 というわけです。
 そこで話が進んで、だったら自分の好きなチビメドを書けばいいという事になり、妹みたいになるんだったらケイに似てるよね → だったら蛇ノ妹とか → いっそのこと狐やら蝶やら狼やらシリーズにしない?
 こうして、妹シリーズが出来上がりました。ありがとう雨音!


 その2.

 作中で、横島が雨音のことを神族といってます(その6)。ですが今回、地の文では魔族と表記しました。地の文といっても、美神の一人称に酷似した様相を呈していますが。
 この神・魔族ですが、私の中でのメドーサの位置付けに起因します。
 私の中では、メドーサは神族の生まれです。元竜神ですから。それがなんらかのきっかけで魔族側に堕天したのだと思ってます。よって、転生した現在の雨音は、堕天前の属性になるというわけです。
 ですがそれ以上に、横島の霊波を核に再生したので、横島の娘という属性(?)がメインですが。彼女は。


 その3.

 さて、残すところ狐、狼、竜、蝶の四つ。竜はオリキャラの予定なので、小竜姫(子供ver)とかではありません。w
 で、物語的に、狐と狼はワンセット。竜と蝶もワンセットとなってます。
 なので、次回は狐で行こうかと。
 時はケイと出会う前。六道女学院に入学して数ヶ月がたった頃です。
 また、暗い話になると思います。注釈つけるかもしれません。それでもよろしければ、読んでやってください。

 では、今度は狐ノ妹でお会いしましょう。
 桜華でした。


△記事頭
  1. 美神ですが、横島を案じるのもそうですけど雨音の保護を全く気にしてないのが見直しました。メドーサとは小竜姫さま以上に因縁がありましたから。グーラーの時言ったように、命がけで向き合ってるからこそ『GSとして』ちゃんと判断できるんですね。
    チビメドの名前のことはそうとも言えますね〜。実際メドの転生が出てる話いくつか知ってますけど、今のところ三種類ほど名前がありますよ。
    狐の妹は、確か猫の時に大筋だけは話したことがありましたね。いわゆる学園ものになるわけですか。確かにシロも同時に話が展開されますな。楽しみにしています。
    九尾(2004.11.09 01:37)】
  2. まとめてのレスでスイマセン。
    待ってましたよー、蛇の妹…

    4,5で雨音ちゃんが味わった恐怖…ほのぼのとした”6”で、それをカバー(勿論彼女の心のケアはこれからも続いてくのでしょうが)、そしてシリアスな美神さんでシメ…とお見事な構成でした。
    偽バルタン(2004.11.09 03:20)】
  3. 美神さんも色々考えてますね。それは、メドーサがどうというものではなく。雨音ちゃんがどうというものではなく。ただ、横島くんを想っての。そして、決めた事。いい女です。
    ・・狐・・。いじめの話でしたか?・・痛いでしょうね・・。読みますけど・・。
    柳野雫(2004.11.09 04:37)】
  4. 読破ーー♪
    まとめ感想その2(勝手に追随

    一つ見ない振りを多大にしたい箇所もありましたが
    (とぅあぬぅおしむぅぇるくぅわぁー!!)
    ハッ!?過去の内なる声が思わず飛び出た(滝汗

    …もしかするとあれで過去の垢流さしたんかい?とかふと思ってしまい…この場合いんふぃにてぃがんとれっとでしこたま何かの存在を殴…く


    よ〜ござんしたなぁ〜雨音ちゃん。
    幸せになるのですよ♪
    がんばれ〜横島父兄ちゃん♪

    名前
    うみゅるり。
    成長しない事を大前提とされた様な固定化名は確かに迎合出来ませぬねぇ(個人的意見です)


    現実で固定化された渾名で苦労した経験者の弁。
    (まったく関係ないですけど^_^;
     個人殺されるのってきついっす(まだいうか
    零紫迅悟(2004.11.09 06:01)】
  5. お久しぶりです。
    全部、拝読しました。
    なるほど、こういう終わり方でしたか。なんとなくですが、納得できました。
    高沢誠一(2004.11.09 18:11)】
  6.  お久しぶりです。「蛇の妹」の執筆お疲れ様でした。出会うまでに様々なことがありましたが、皆に家族の一員として迎えられて良かったです。雨音のたどたどしい嬉しさを読むと、こちらも嬉しくなります。
     しかし、雨音が家族の一員として迎えられた反面、横島はいろいろと根回しをしていたんですね。令子の心理描写は、彼女なりに心配していることが伝わってきました。まだまだお話は続くようですが、妹コンプリート頑張って下さい(^^)。しかし、横島を「パパ」ですか。これだと、蛇の妹というより、蛇の娘になりそうです(^^)。
    武者丸(2004.11.09 20:12)】
  7.  >九尾さま
     ……すいません、そんな上等なこと考えず、適当に書いてました(汗
     その6で終わらせようとしてたのをちょっとだけ付け足した感覚だったので。自分の中で。

     >偽バルタンさま
     ……すいません。そんなご大層な構成、欠片も考えてませんでした(滝汗)
     ただ単に、4,5で苦しかったんだから、楽にさせてあげようと。介錯のような気持ち?(違

     >柳野雫さま
     今までレギュラーの描写がほとんどありませんでしたからねぇ。みんないろいろ考えてるんですよとアピールです。
     狐は……ある意味、蛇以上に痛いかもしれません。すんません、覚悟しておいてください。

     >零紫迅悟さま
     私も小学校の頃、デブ・ハゲ・チビの三つがそろってるとかで(禿げてはないですよ、少なくとも)散々なあだ名つけられてましたなぁ。思い返せば懐かしい思い出です。

     >高沢誠一さま
     どうも、お久しぶりです。
     こういう終わり方もいいなと、なんとなくでこうなりました。w

     >武者丸さま
     最初は妹にしようと思ってたんですがね。チビメドはやはりパパだろう、と。
     さてさて、誰が『ママ』になることやら……
    桜華(2004.11.10 19:42)】

▲記事頭


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