▽レス始▼レス末
「それは舞い落ちる粉雪のように(逆転裁判)」李白 (2004.11.14 21:22/2004.11.15 23:19)

――――――ねえ・・・ナルホド君は雪は好き?



千尋さん―――僕はまだ・・・あなたを忘れられないでいます







クリスマスのイルミネーションに彩られた街角を歩いている。
PM7:30・・・休日ということもあり人通りが途絶えることはない。
溢れるような人ごみの中を縫うように進む。

12月半ばにしては冷え込みが厳しいらしい・・・・今朝の天気予報で気象予報士が言っていたことだがどうやら的中したようだ。
スーツにコート、念を入れるようにマフラーまで巻きつけてきたというのに防寒対策は十分ではなかったようだ――――ひどく寒い。

だが自分の手を取り引っ張るように三歩前を歩く少女は―――――

「ほらほらナルホド君っ!!急がないとケーキの予約終わっちゃうよっ!!」

――――自分よりも薄着のはずなのに寒さを気にもしていないようだ。

色とりどりの電飾に飾られた街路樹に赤と白を基調としたものに変わっているショーウィンドゥ、そして周囲に流れているクリスマスソング・・・・年頃の女の子がテンションを上げるのは当たり前の事といえた。
そしてそれは『花より団子』の目の前の少女も例外ではないのだろう。

綾里真宵―――その身に巨大な霊力を宿す霊媒者にして成歩堂法律事務所の助手兼影の所長・・・これは本人談であるが。

白と紫を基調とした装束に近い服装、長い黒髪を団子状に一つに纏め上げてある髪型・・やや時代遅れではあるが彼女の置かれている環境を考慮するとそれほど違和感はない。

喜怒哀楽を素直に表現する無邪気さと、どんな時も明るさを失わない強さを兼ね備えた少女。
その明るさに助けられたことは一度や二度ではない――――明るさだけでなくその霊媒能力にも幾度となく救われた。

そんな性格をしている彼女も悲しみを知らないわけではない。
その身に宿す強い霊力から様々な権力争いに巻き込まれてきた。
その影響から幼い頃に母親が行方知れずになり姉と二人で暮らしていたものの、その姉も・・・そして再会した母親とも死に別れている。


綾里千尋・・・真宵の実の姉にして自分の上司であり師匠ともいえる女性。
ある事件で殺害されこの世を去った・・・・はずだったがその魂は未だこの世に留まり弁護士として未熟な自分に様々な助言をしてくれる―――妹の体を借りて。

全ての事件に決着がついてからは一度も姿を現していないが。

もう会えないのか・・・それとも彼女が会おうとしないのか。
彼女と会う手段が目の前に存在していること、それを可能としていること・・・・反するように姿を現さない―――会えないという事実がひどく胸を締め付ける。




「慌てなくてもケーキの予約は逃げないよ。真宵ちゃん。」
言葉に苦笑を混じらせながらも彼女に合わせて歩行速度を速める。
繋がれた右手の温もりが心地よくて離したくないから。

「何言っているのさ!!広告に限定300個って書いてあったじゃん!!」
自分の答えが不満だったのか頬を膨らませながら怒る。

そもそもここに二人がいる原因は一枚の広告だった。
『有名ケーキ店のクリスマスケーキが格安で味わえる!!』それに目をとめた真宵が「是非とも!!」とばかりに予約に出てきたのである。
なし崩し的に友人知人を事務所に招いてクリスマスパーティーを開くというところまで決まったのは言わずもがなであるが・・・

「わ、わかった、わかった。急ごうよ・・・」
彼女の頬を膨らませて怒る様はそれほど怖くはないのだが、後からそれをネタにどんな無理難題を要求されるのか分からないので素直に彼女に合わせる。
実際に予約を締め切られていたら・・・・・・マズイ。
先に予定されている・・・かもしれない状況を予測し逆に彼女の手を引っ張るように先を急ぐ。

「そうそう!!!急がなきゃ!」
途端に怒り顔を笑顔に変えて歩き始める。
『素直で無邪気』という言葉がよく似合う少女だった。




「けど寒くないの?真宵ちゃん。」
しばらく歩いてずっと尋ねたかった事を訊く。
どう考えても自分より薄着・・・・というよりいつも通りの服装に自分の服装以上の防寒能力があるとは思えない。
『これが若さか・・・』という言葉だけでは片付けることが出来ない疑問である。

「寒くないわけじゃないけど・・・・実家の方がまだまだ寒いし。・・・それに・・」
綾里の家がある倉院の里という場所は深い山奥にある。
そこで生まれ育った人からすればこの程度の寒さは寒さの内に入らないのだろう。
田舎恐るべし・・・である。

「それに?」
最初の答えに疑問は解けたものの、言いよどんだ言葉が気になり訊き返す。

「いいじゃんそんなの。気にしないでさ!!」
心なしか顔を赤く染めているのだが、誤魔化すように。

「まあ・・・・いいけどさ。」
そんなに照れるようなことなのか、気にならないわけではなかったが。
大したことではないのだろうと歩き始める――――が足を止める。



『――――今日は1月中旬並みの冷え込みになり、夜からは初雪が見られるかもしれません』



「ん?どうしたの・・ナルホド君。」
急に足を止めたのを不思議がる真宵。


「――――雪だ。」
呟くような小さな声・・・独り言のような。

毎年雪を初めて見ると思い出す―――いつかの会話を。




―――――ねえ・・ナルホド君は雪は好き?

「え・・・・雪ですか?」


まだ千尋が生きていて・・自分が弁護士の資格を取ったばかりで彼女の元で学んでいた頃。
2月を過ぎた頃だったか―――その年は暖冬で・・・その日初めて雪を見た。
二人で事務所を出た時に降り始めた粉雪。

街灯に照らされた千尋の周りを舞うように落ちていく粉雪・・・・街灯の光を粉雪が反射して、小さな光の粒が足を止めた彼女の周りで踊っているようで――――そのどこか幻想的な雰囲気にのまれ成歩堂は言葉をなくした。

その雰囲気の中で思い出すように千尋は口を開いた―――夜空を見上げたままで。
その声はとても優しげで・・・それでいて悲しげで。
成歩堂は訊き返すことしかできなかった。


―――――私は好きなの。この雪が降り積もって・・・全てを白く、真っ白に染めてくれるような気がしてね・・・そう・・全てを。


暗い夜空を・・・雪の最初を見上げているようで、ここではないどこかを瞳に移しているようで・・その声は静かで澄んだ空気の夜に響いていった。

初めて上司の・・・彼女のこんな一面を見た気がした。
あの時はそんな事しか感じなかった。
もう少し男女の経験を積んでいればかける言葉もあったのだろう。

今なら分かる気がする――――あの時の彼女の気持ちが。

弁護士としての師である星影竜之介の裏切りにより母親が失墜。
先輩である神乃木も行方不明。
他にも弁護士として生きていくのならば人の醜いところも覗かなければならない。
『真実』というものを求めるには綺麗なままではいられない。

――――全てを真っ白に染めてくれる気がして・・・

それは彼女が初めてこぼした弱音だったのかもしれない。

けれどその時は、彼女の言葉に込められた意味や心情を察することも出来ずにただ・・・彼女の名前を呼ぶことしか出来なくて――――消えてしまいそうだったから。

「千尋さん・・・・」
負けずに小さな声で。






「ほんとだ!!!道理で寒いと思ったよ!!」


「―――――――っ!」
隣から聞こえた声で我に返り、そして――――

(初雪か・・・・・)

――――あの日を想う。



何故か訊いてみたい気がした。

「真宵ちゃんは・・・雪は好き?」
そう思った時には口にでていた。



「うん!!好きだよ!綺麗だし!!それに・・・・・」


「それに?」

あの日のまま・・・あの時まま・・姿が重なりそうで・・



―――――全てを白く、真っ白に染めてくれるような気がしてね・・・
     「その時に手を繋いだら・・・あったかいでしょ?」



違う・・・重ならずに姿は真宵のまま。
恥ずかしいのか顔を赤く染めていて・・・・溢れんばかりの笑顔。

その笑顔に気付かされる。

今、自分と手を繋いでいるのは千尋ではなく真宵・・・
今、この世に生きているのは千尋ではなく真宵・・・

自分が真宵を見ていなかったことを。
千尋が姿を現すことを望むということは真宵だけではない・・・千尋の想いも踏みにじっているということに。

生きているならば前に進まなくてはならないことに。

あの日の想いは残る――――自分の心の中に。
それを抱いて進むことが生きるという意味であり――――努めであり。

『今度は僕が守ります・・・・神乃木さん。』


そして強く・・彼女の手を握り締めて走り出す。




「行こう!!真宵ちゃん!!ケーキが逃げちゃうよ!!」
――――離さない

「ちょっ・・急ぎすぎだよっ!!もう!!」
――――繋いだその手は



「ねえナルホド君。プレゼント・・・期待してるからねっ!!トノサマンシリーズ!!」
――――暖かいから







――――あなたは雪・・・好きですか?


△記事頭
  1. はじめまして。李白といいます。投稿初心者ですがよろしくお願いします。
    『逆転裁判』やったことがない人にはぜんぜん楽しめない・・・というより分からない作品だと思うのですが・・・。
    これを機にやってみていただけると嬉しいです。

    これは当初某逆裁サイトに出したものですが加筆修正?のようなものをして出してみました。
    李白(2004.11.14 21:31)】
  2. 『逆転裁判』はやったことがないのですが、それでも読み応えは十分ありました。
    千尋と真宵、二人の雪に対する想いと言えばいいのかな? それがいい感じですね。
    トノサマンシリーズを気にしつつ、ナルホドと真宵の二人の未来に幸せが待っていることを祈ってます。
    テルヨシ(2004.11.14 23:54)】
  3. 良いですねー。なかなか雰囲気出てて、ネタを知っていても知らなくても、素直に読めるのでかなりGOODです。
    逆転裁判のSSがこの作品を機に出てくれるといいですねー
    シガミ(2004.11.15 17:25)】

  4. レス返しです。

    テルヨシ様>初めまして。コメント有り難うございます。

    逆転裁判をやったことのない人にそういってもらえるととても嬉しいです。
    いたずらに長くなってしまった気がしたのですが・・・。
    ぜひ『逆裁』をプレイしてみてください!!おすすめですよ〜
    そしてまた読んでいただけるとうれしいです。

    シガミ様>初めまして。コメント有り難うございます。

    そう言っていただけると嬉しいです。やや中途半端なネタバレなんですが(やったことのない人にはよくわからないかもしれません)そういっていただけるとほっとします。
    そうですね!!もっと出てくれば私も書きやすいのですけど・・・
    李白(2004.11.15 23:15)】
  5. 逆転裁判。・・・これがやりたいが為だけにGBAを買い
    それ以外のソフトを一切買っていなかったりする。
    今のところ俺的今世紀最高のゲーム。
    このSSを機にもう一回1〜3をやり直そうかな。

    やったこと無い人はカプコンのHPでお試し版(すぐ終わるけど)
    があるので雰囲気だけでも味わってみてください。
    Z(2004.11.16 00:28)】
  6. レス返しです。

    Z様>初めまして。コメント有り難うございます。

    おお!!私と同じ逆転フリークがいたとは!!感激です。
    あのゲームは秀作ですよね。
    次回は霧緒ネタでいこうかなと思うんですけどね〜
    李白(2004.11.16 03:22)】

▲記事頭


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