▽レス始▼レス末
!警告!ダーク、バイオレンス有り
15禁注意「パラサイト・イヴ2(オリジナル色が強いかも?)(GS+パラサイト・イヴ2)」春菜 (2004.11.14 23:59)
こんにちは、春菜です。色々考えた末、先の投稿SSを削除し再構成しました。それに伴い文体を変えて内容も一部変えましたが、ダーク・バイオレンス指定は変わっていませんので、くれぐれもご注意を!


注意!! このSSには妄想・捏造・性的表現・ご都合主義・出血・グロテスクな表現などが含まれていますので、『GS美神』の原作及び『パラサイト・イヴ』の原作・映画・ゲームに確固たるイメージを確立されている方にはお奨めできません。また、横島以外のGSのキャラは、内容への出現回数が少なく、イヴの方も、キャラの名前・性別が違っていたりします。それにもご注意ください。



数多くの死傷者を出したマンハッタン封鎖事件から、もうすぐ2年が経過しようとしていた。
横島は事件後、美神除霊事務所を退職し独立してGSをやっている傍ら、M.I.S.
T.日本支部のハンターとして働いている。


マンハッタン封鎖事件はアシュタロス戦の翌年、クリスマス一色に染まったN.Y.のクリスマス・イヴに、オペラを上映中のカーネギー・ホールで始まった。
先の戦におけるさまざまな反省から、上層部は国や組織、神・魔・人などの属性に縛られずに機能するよう、急ピッチで既存組織の構造改革を進め、優秀なやつはエリートサラリーマンばりに世界各地を飛び回ることになり、横島もその例に漏れず別件でN.Y.に除霊の助っ人として呼ばれ、無事終了したあと報酬のついでに、大人気で席を取るのが超難しいというオペラのチケットを貰って事件に遭遇した。
事件の首謀者は主演女優メリッサ・ピアス。
彼女が突然得体の知れない禍々しい生物に変貌して人々を発火させて逃げ、何故か発火しなかった横島に『Eve(イヴ)』と名乗り不気味に変身先したクリーチャーを残して去っていったのだ。
『再びミトコンドリアが解放される時が来たのだ!!』と言い残して。


事件関係者以外知らないことだが、実はこれの前哨戦に近い事件がすでに日本で起きている。
きっかけは永島聖美という25歳の女性の事故による脳死。
生前、腎臓バンクに登録していた彼女の腎臓は14歳の少女に移植され、肝臓は夫の強い希望で彼に渡された。
夫・・・永島利明は生科学者で、夫人を深く愛していた永島氏はその肝細胞を培養することで彼女を生かしていると思いたかったらしいが、すぐにその肝細胞も――――そして少女に移植された腎臓も異常な活動を始めた。
なぜなら永島聖美の体内のミトコンドリアは、これまでにない進化したミトコンドリアだったからだ。
Mitochondria――――ミトコンドリアのことを詳しく知っているやつはそういないだろう。
ほとんどは学生時代の理科や生物の授業を通して、その名前だけは知っているはずだが、『ミトコンドリアとは何ぞや?』と改めて問われると、答えに詰まるのが大部分だろうと思われる。


ミトコンドリアは1970年に構造と機能についてほぼ解明されたとされるが、その発生や存在についてがいまだ不明確な事も多く、現在も研究が進められている。
専門家に説明を受けても一般人には理解しにくい要因にて、起きた事件の要点だけをはしょると次のようになる。
ミトコンドリアは生物の細胞のなかでATPエネルギーを作る器官で、核以外に独自のDNAとその遺伝情報のコピー・転写・翻訳に必要なすべてを含んだ完璧な遺伝システムを持ち俺たちと共生する『寄生体(パラサイト)』。
動物は筋肉を収縮させることによって動く事が可能なのだが、その筋収縮の為にはATPエネルギーがいり、ミトコンドリアは自分では成長や増殖に必要な材料を作らずに宿主の細胞室中から取り寄せるが、ミトコンドリアをコントロールしているのは核遺伝子で、核の命令によって分裂やエネルギー生産をしている。
核が主でミトコンドリアが奴隷なわけだが、永島聖美のミトコンドリアはその逆
――――宿主である細胞を奴隷化する力を持っていた。
そのミトコンドリアはさまざまな手を使って進化し続け、最後には腎臓移植された14歳の少女の子宮に自分と永島利明との子供をはらませたが、それはミトコンドリアの能力を持ち、人間の能力を身につけた完全な生物、完璧な女性体だった。
ミトコンドリアは母系遺伝・・・つまり両親のミトコンドリアDNAが子供に受け継がれるのではなく、母親のものだけが受け継がれるのでミトコンドリアは女性と考える事ができる。
父親のミトコンドリアDNAは卵細胞の中に存在する多胞体によって消化されるからだ。
生まれた娘は環境への適応能力の充実と合理化、自らが繁栄していく為の変異を望むままにできる――――地上初の自らの意思で進化できる究極の生命体だっ・・・そのはずだった。
だが計画には一つの大きなミスがあった。
さっき言った通り、ミトコンドリアDNAは母親のもののみが子供に受け継がれる
が、これは同種間で交配した時のみであり、永島聖美の体を出て子供を作る為に自らを変化させていったこのミトコンドリアは、すでに人とは異なる種へ変化しつつあった――――つまり、彼女と永島利明の交配は異種間交配となっていたのだ。
その結果、思いもかけない事がおこった。
受け継がれないはずの父親のミトコンドリアDNAは排除されずに増え、産まれた娘の中で『進化した新しい女性ミトコンドリアDNA』と父親の『普通の男性ミトコンドリアDNA』がせめぎあい、女性と男性が交互に出現するゆるんだ肉塊へと変化。
体を保てず泣き叫び絶叫し、とまどい、力を暴走させ始めたのを父親である長島利明が手を差し伸べ、なだめ、抱き締め、最期は共に燃えながら溶けていったそうだ。
この事件の元凶である進化したミトコンドリアは『EVE』と名づけられていた。


マンハッタン島封鎖事件で現れた突然変異のミトコンドリア・イヴは、日本で出現した時よりも明らかに進化していた。
日本のイヴの確認されている能力は人体発火と意識操作のみ。
しかも日本では培養されていたので、他人を操るのはスライム状のイヴが直接相手の体内に侵入する必要があり、操られている人間もイヴが出て行けば元に戻ったが、進化したイヴは自らの力が及ぶ範囲であれば手を触れずに発火・溶解・変容させる事が出来たのだ。


イヴの人体発火はパイロキネシストのように精神の力で起こしているわけではない。
活動エネルギーを熱に変換しているのだ。
ミトコンドリアが発生可能な熱量は、例えばグルコースという物質の酸化では1gの分子あたり564kcal、ガスオーブンが一時間に発生させる熱量が5000kcal。
イヴは人間サイズだから、一瞬で人を炎に包んでしまうだけのエネルギーを発生させていてもおかしくはない。


ミトコンドリアのDNAは宿主細胞の10倍の速度で変異を起こす。
これは、それだけ進化が速いとも考える事が出来る。
顕微鏡でしか見ることができないような最小な生物に支配されるなんて想像したくもないが、猿が人間になったように、ミトコンドリアが意思を持って既存の生物の殻から脱し、独自の進化を始める可能性がないなんて――――このままの状態が永遠に続くなんて誰に言えるだろうか。
長くなってしまったが、ようするにマンハッタン島封鎖事件というのは自我を持ったミトコンドリアが宿主を乗っ取り、自らが支配者として君臨する新時代の到来を実現すべく暴走した事によって起きた。


Eveと名乗る進化したミトコンドリアは、人体発火や細胞液状化能力を使って人類淘汰を進める一方、真の目的である完全体――――つまりミトコンドリアの能力を持ち、元から自分の体を持つ究極の生命体を誕生させるべく動いた。
イヴの力と行動に人々は恐怖におののき、事態を重く見た合衆国政府はマンハッタン島からの完全避難を発令し、その後封鎖。
横島は少数だが精鋭の手助けを受けながら必死に戦い、かろうじてイヴを倒す事が出来たがその戦闘は困難を極めた。
なにしろ相手はミトコンドリア、しかも他人の細胞内にいるミトコンドリアに働きかけて支配することが出来る以上、幾ら凄腕の戦闘員を呼んでも無駄。
敵が自分の中にいるなんて笑えない冗談だ。
イヴと近距離だと発火させられるか、邪進化させられてクリーチャー――――後に
N.M.C(Neo Mitocondrion Creature)と呼ばれることになるが――――化け物として襲ってくるかの、二つに一つ。
N.M.Cは原型を留めているのが大部分で、その攻撃方法も元々の能力の発展系が多い。
例を挙げると、犬だったらケルベロスになったものや二足歩行になってしまったも
の。
炎を吐いてきたりもするが、基本的な攻撃手段は噛み付きや引っ掻き。
ただ、能力が大幅にアップしているから単なる引っ掻き傷程度では済まされない。
爪はより鋭く、俊敏性はあがり、獰猛性が増し――――・・・・・。
いたずらに犠牲が増えるのをわかっていながら増援なんて頼めるはずがなく、結局
バックアップはしてもらったものの、ほとんどすべて横島が倒す事となった。


――――なぜ横島だけが発火しなかったのか。
その答えは、日本でのイヴの反乱を知っている前田という科学者が調査に同行した時に、横島の血液を調べた結果、判明している。
横島の中のミトコンドリアも異端だったのだ。
前田がイヴのミトコンドリアに横島のそれを接触させた時、取り込もうとしたイヴのミトコンドリアを跳ね除け、自分を保っていた。
ただ彼の変異したミトコンドリアはイヴと違って、意思・体を乗っ取ることはなかった。
イヴと同じようにミトコンドリアを使ったパラサイト・エナジー・・・PEも戦闘中に少しずつ目覚め、敵を倒すのに大いに役立ったが、イヴとは違って人としての姿を保ったままで使用できた。
彼が変化したのはイブと彼女が産んだ完全体と戦った時の2回のみ。
それも人間の原型はそのままに鳥の羽と違い重さがまったくなく、空を飛ぶことすら出来ないのではと思わせる、虹のようにグラデーションのついた光が背に一対の羽根を構成しただけで、のちにこの変化は彼の意思ではなかったことが確認されている。
PEの塊で出来ている羽根は凄いパワーだったが、その分体力の消費も激しいらし
く、完全体を倒すには至らなかった。
完全体とは米軍の巡洋艦の中で戦ったが、最終的には前田が作ってくれた横島の細胞入りの弾丸を完全体に撃ち込み、溶けながら追いかけてきたやつをなんとか振り切り、ボイラーを操作して臨界点を超えさせ、巡洋艦ごと爆破した。
マンハッタン島封鎖事件はこうして終結し、M.I.S.T.はその後出来た。


M.I.S.T.
正式名称はMitochondrion Investigation and Suppression Team(ミトコンドリア調査・鎮圧班)。
M.I.S.T.は『マンハッタン島封鎖事件』以来、F.B.I.内に極秘に設立された特殊チームのことだ。
イヴによって邪に進化したネオ・ミトコンドリアに支配され大型化・凶暴化した生物で、ベースとなった生物の特性に関わらず肉食化しているN.M.C.の再発生防止・絶滅を目的としているが、N.M.C.の存在自体が合衆国政府に認知されていない為に、その存在や活動は極秘裏に行われ、所属捜査官も通常はF.B.I.捜査官を名乗って任務に当たっている。
イヴのような反乱がいつ・何処で・誰に・どんな形で起こるか予測がつかないことに各国首脳陣は頭を痛め、満場一致で自国の内外とも公式には認知しないままF.B.I.のみのチームであったM.I.S.T.を警察のように組織化した。
事件の当事者の一人、勝利の立役者としては無視するわけにはいかず、横島は設立と同時に所属している。
事件後可能な限り排除して回ったがすべてを駆逐するには至らず、運良く逃れたク
リーチャーが西海岸などで見つかった為に一時期L.A.に住んでいたが、かつてのイヴのような変異ミトコンドリアは現れていない。
クリーチャーも確実に減少傾向にあり、横島も戦いの終わる日が近づいていると思っていた――――が、甘かった。


マンハッタン島封鎖事件は発生から終結まで6日間かかったが、イヴが進化さ
せたクリーチャーはその間に新たなそれを作る下地をこしらえてしまった。
封鎖が解除されて徐々に住民が戻り、頻発する犯罪や政治家のスキャンダルなどの
ニュースで連日メディアが占領され、世間の話題からイヴの記憶が薄れ出した頃、やつらは現れた。
出現し始めたクリーチャーは一般のネオ・ミトコンドリア支配の特徴は備えているものの、事件ほど顕著な変化は見られなかった。
その理由として挙げられるのが経口摂取で、完全にネオ・ミトコンドリア配下に置かれた他のクリーチャーの排泄物・体液などを食し、間接的に発生したのではないかと言われている。
ようするに食物連鎖だ。


事件のあと横島の環境は一変した。
採取された横島の細胞に潜むミトコンドリアを、あらゆる角度から観察・実験を試みた科学者の見解が記された大枚のレポートが大きな要因だったが――――魔族など人間外が絡んで起きたわけではないイヴの反乱は、質・内容共に過去に例がなく神界・魔界の上層部も興味を持ったようで、すでにこのレポートはコピーして両陣営にも提出されたそうである――――その内容はというと・・・。
『横島忠夫は人間ではない』
この一言に尽きる。
そう、横島は現在の人間、ホモ・サピエンスではない新たな種となっていたのだ。
科学者は言う。
ミトコンドリアの突然変異によって、横島が現在の人間とは異なる生物になったこ
と。
さまざまな形でPEと名づけられた不思議な力を自らの意思で使用出来ること。
現状ではその力に対抗することが人間には不可能な為、仮に横島がイヴのように反乱を起こしたら種の絶滅に瀕すること。
――――政府は横島の能力を危険視していたのだ。
だからこそ何があってもすぐ対処できるよう、横島を組織管理下に置いた。
世界GS本部がアシュタロスの野望を阻止する為に美神令子を抹殺しようとしたように、生物の種を守るという名目でいつでも横島を抹殺できるように・・・今後再びイヴのような事件が起きた時に対抗できることや、文珠使いという稀有な才能を上回るデメリットの為に。
政府、いや人類にとって横島は諸刃の剣なのである。


元々横島の立場はかなり微妙だったのだ。
アシュタロス戦で見せ付けた才能の多さに目眩を覚えた者も少なくない。
器の強さもその一つであるが、これは限度がある。
神族も含め、魔族の魂は人間に比べ強い。
前に茂流田と須狩の心霊兵器の実験台にされた時に出会ったグーラーは、横島の文珠を使用したとは言え、霊体構造を再生したくらいだ。
令子もおキヌもあの時は気にも留めなかったが、文珠が幾ら武器としては多様性・破格のパワーを持つとはいえ、人間だったら普通は死ぬ。
魂さえ無事であれば壊れても肉体を再生できるんだから凄いとしか言いようがない。
べスパが海兵隊の連中から銀の銃弾の集中連射を受けても無事だったように――――痛みはあるようだが――――肉体の強度も人間とは比べ物にならない。
魂が強いからそれを受け入れる側も耐えられるように作られてるんだろうが、なら
ば、仮に人間の魂だけを取り出してその肉体に魔族の魂を宿らせるとすると、肉体の方は耐え切れずに内部から崩壊するはずだ。
生まれ持った強すぎる力の為に、身体を病み亡くなる例も珍しくないのだ。
霊基構造を破壊され死に向かって一直線だった横島に、魂を自分の身体が維持出来ないほど注ぎ込んだルシオラは魔族だ。
その手段はガラスの器に熱湯を注ぐようなもので、本来ならば横島の霊基構造の破壊が止まっても、今度は急激に魔族の霊基構造が入ってきたことによる肉体と魂の拒絶反応で結局は死に至るはずだった。
しかし彼は生きている、後遺症の欠片もなく。
するとここで疑問が浮かび上がる。
なぜ、彼は生きているのか?


レポートを作成した科学者は、一つの仮説を挙げている。
その時にミトコンドリアが変異したんじゃないかと。
そもそも魂の質が違うから本来ならあそこで死んでいるはずだったが、横島の魂の
キャパシティは大きかったのだろう、なんとか持ちこたえたわけである。
それでも肉体の方は耐えられずそのままぼろぼろになるはずだったが、生き延びる為にミトコンドリアが進化した。
必要に迫られてとも言えるが、魔族因子が横島の身体を侵食しても耐えられるだけの強度を持った肉体へと、自らが生き延びる為に少しずつ造り替えていったのではないか。
PEがイヴの反乱まで発現しなかったのは、日常生活に於いて自らを脅かす存在がいなかったからで、イヴのように現在のままで対抗できない何かが出現し、その命が危
機に晒されることがあれば更に進化する可能性が高いと。
また、一つ一つのミトコンドリアの意思の集合体がイヴと言えるわけだが、横島のミトコンドリアは彼の意思に従っている、もしくは彼が無意識にミトコンドリアの支配を拒否し、その意思を逆に支配しているフシがあると。
事実、横島はメリッサのように乗っ取られることがなかった。
ただし、これは『横島の身体に居るうちは』との注釈が付く。
彼のミトコンドリアに他の人間のミトコンドリアを接触させた実験では、すぐに他のミトコンドリアを取り込んでしまったそうだ。


実際に横島のミトコンドリアが完全体のなかでどのような反応をしたのかはわからないし、輸血や臓器移植の時の拒否反応のようなものだったのかもしれないが、イヴが産んだ完全体に致命傷を与えたくらい力がある横島のミトコンドリア。
キスやセックスによる接触で相手の身体に取り込まれでもしたらどうなるか、火を見るよりも明らかだ。
どうしてもとういうならグーラーのように精霊ならば大丈夫かもしれない。
肉体を纏っているように見えるがガルーダにやられた時に血が出なかったように、魂を物質化することによって拡散を防いでいると言え、純粋な意味での『肉体』を持っているわけじゃないからだ。
ミトコンドリアは細胞に潜んでいるわけだから、事実だけを述べるならば横島はグーラーとなら出来るが、ワルキューレとは出来ない。
覚えているだろうか、妙神山でデミアンにやられたワルキューレは、紫色とはいえ血を流していたことに。
取り込まれたミトコンドリアが暴走して意識を乗っ取りでもしたら、神魔族といえども肉体を纏ったものはメリッサのようになる可能性が高い。
デタントの世の中、神・魔・妖・人のどれにも属さない新たな勢力を作るのは好ましくない。
マンハッタンの再現は遠慮したいというわけで、横島は人には当然のこと、神魔族にも手を出せなくなったのだ。
わずかな救いは、現存するあらゆる病気にかからなくなったこと、ウイルスのように空気感染の心配をしなくても良い為、通常の生活が送れることだろうか。


2000年9月14日午後8時16分M.I.S.T.日本支部


横島はオカルトGメンの射撃訓練場にいた。
握っているのはハンドガンでM93R。
拳銃としては非常に稀な3点バースト――――トリガーを一回引くと3発ずつ発射する――――で20発のロングマガジンを装填し、比較的軽量なので速射性が高いが、口径が小さいので火力の低い9o弾しか装填できない。
弾薬はパラベラム、ヒドラ、スパルタンの3種類あり、今は練習なので一番威力の弱いパラベラムを使っている。
熊や猿、蜂や蛙などマンハッタンに現れたクリーチャーが描かれた板が、コンピューター制御によってランダムに天井や床から現れるのを狙いを定めて撃つ。
辺りに漂う火薬の臭いと弾け飛んだ薬莢。
何度か繰り返すとレベルが上がり、板は四方に移動し始める。
外すことなく全弾命中させると拍手が響いた。
振り返り認めた相手に目を丸くすると、ガラス越しに訓練プログラムを止めるよう声をかける。
「西条、止めてくれ」
「わかった」
板が停止するのを確認してから、相も変わらず軍服姿の彼女に微笑みながら近寄っ
た。
「ワルキューレ!いつ来たんだ?」
「たった今着いたところだ。腕が上がったな横島」
照れたように頭を掻いた。
「お前に誉められるのは感慨深いものがあるな」
「まあ、初めがアレだったからな。悪かったとは思っている」
こんな風に自然に会話できるなんて、お互い想像もしなかった。
「ところで、今日はどうしたんだ?隊長なら今日は執務室にいると思うが」
「ああ、もう会って来た。それに今日はお前に用があったのだ」
「俺に?」
なんだろう、と首を傾げるが思いつかない。
「吉報だ、横島。ルシオラが妙神山に常駐することになった」
「本当か!?」
復活したルシオラは魔界で療養していたのだ。
ルシオラ復活についての詳細は省くが、神魔両陣営の最高指導者からの提案だとも言われている。
「でも、ジークやパピリオは?」
パピリオは妙神山に預かりの身でジークは留学生だが、魔族の人数だけが増えるのは良くないのではないのか。
「心配はいらん。ジークは魔界に戻ったから人数は変わらない。それにこれもデタン
トの一環なのだ」
「どこら辺が?」
「ジークのように留学生ではなく、常駐、しかも『妙神山』でというところだ」
(ああ、そうか。ワルキューレって小竜姫様のように常駐神じゃなかったっけ・・
・)
ワルキューレは美神が狙われた辺りから人間界に居て、アシュタロス戦の後始末の間しばらく妙神山で過ごしたが、それは任務の為であり終了すれば魔界に帰還するのだ。
彼女は今でも魔界正規軍の大尉なのだということをすっかり忘れていた。
「どうせならデタントをより推進させる為、新たに砦を造ったりせずに共同生活をさせた方が良いということらしいが」
「そうか。で、いつ来るんだ?」
「まだわからん。決まったばかりなのでな」
「わかった。正式に日取りが決まったら教えてくれ。色々持ってくから」
「うむ。ではまた来る」
ベレー帽を被り直し空中に消える。
「・・・変わらないな、あいつは」
ワルキューレの態度は全く変わっていない。
(変わらない事がこんなに嬉しいなんて思わなかったな・・・)
自分を決して裏切らない真実の仲間――――美神やおキヌ、雪之丞、ピート、タイ
ガー・・・浮かぶ顔は両の手に余る。
(俺って幸せ者だよな・・・)
今度会ったら何か奢ってやろうと心に決めると西条に合図をし、再び動き出した標的
に向かって銃を構えた。


ブーッブーッブーッ・・・――――。
赤ランプが点灯しエラー音が鳴る。
「どうしたんだ、横島君?君らしくないミスだな」
金髪の若い女性が描かれた的。
彼女は胸に大きな穴を開けたまま微笑んでいる。
「わりぃ・・・ちょっとぼーっとしてたかも」
一枚一枚描かれたクリーチャーに付随して思い出される戦いの記憶。
惑い、恐れ、怒り、焦り、悲しみ・・・様々な感情が渦巻き、いつしか意識が内面に飛んでいたらしい。
「どうする?このまま続けるかい?」
「ん〜今日はもうやめにするわ」
「OK。終了・・・と」
操作室から西条が出てくるのを目の端に捉えながら廊下に出る。
ライフルやショットガンなどの銃器が納められている棚の鍵を開け、使っていた銃を格納するとまた鍵を閉めた。


「横島君、君も少しは身なりを整えた方がいいんじゃないか?金がないわけではないんだろう?」
並んで歩きながら相も変わらずGジャンGパンの横島に、高そうなスーツで身を固めた西条が言う。
「M.I.S.T.は制服がないし、俺はハンターだから一番動きやすい格好をしたいんだよ」
M.I.S.T.は情報処理担当や銃火器担当、捜査官などの、総勢19名で構成されていて、横島のような現場担当者はN.M.C.を『狩る』ことからハンターと呼ばれている。
ハンターは原則として二人一組で行動し、内一人はGS免許取得者かそれに準ずる
者、もう一人は戦闘力に秀でてる者、もちろんどちらもあらゆる銃火器の取り扱いに長けてい
ることが絶対条件だ。
「金はルシオラとの結婚生活の為に出来るだけ貯蓄しておきたいんだ。一人暮らしだったら構わんが、俺はあいつに金で苦労させたくない」
「・・・見上げた心意気だとは思うが、魔界にデパートなんかがあると思っているのかい君は・・・」
横島にとって魔界は外国と同じ感覚なのだろうか。
魔界で家計簿をつけながら残金にため息をつくルシオラ、なんてものを想像してしまった西条は眉をしかめた。
「だってルシオラは砂糖水、パピリオは蜂蜜、ベスパはタンパク質ってふうに飯を食ってたぜ?」
「ほー」
「それにこのGジャンとGパンはビンテージもので結構値が張るんだ、お前知らないだろ?」


横島は独立して個人事務所を経営、仕事にも高価な道具をほとんど使用しない為に結構リッチだ。
人間が普通に生活するなら、きっと一生働かずとも暮らせるぐらいの資金はあるだろうが、その日一日の食事にも困る日々から解放されただけで本人は満足しているので、きっとこれからも貯まる一方であろう。
だが横島がバリバリと仕事を精力的にこなしているかというと、決してそうとは言えない。
一般依頼よりも他のGSの仕事の助っ人やM.I.S.T.の報酬で生活しているのだ。


アシュタロス戦の真実は限られた人物しか知らない。
ルシオラのことを興味本位でほじくり返されるのが嫌で、彼が関与した事は巷には伏せられている。
どんなに強い力を持っていても、発揮して認識されていなければないのと同じで、GSとしては無名に近いままだった。
しかしそれは過去の事。
知識は多少心もとないが実力はピカ一な横島は、美神が金と横島に対する態度を改めたことにより正当な報酬が懐に入るようになっていた。
業界トップの美神をも勝る霊力を持ち、神魔界にツテもある。
独立せずとも、望むのならどんな名声も栄誉も手に入れる事が可能だった――――・・・そう、イヴの反乱が起きるまでは。


美神を見ればわかるように、実力があって有名になれば高額依頼も舞い込むが、何をするにも周囲からの注目度合いが違う。
半魔であり、ミトコンドリアの進化で新人類とも言える横島には、注目され続けるのは都合が悪い。
何しろそれが原因で美神のところを辞めなければならなかったのだ。
自我を持ったミトコンドリアが反乱を起こすという、前代未聞の大事件。
人々は恐怖に恐れおののき、マスコミは狂ったように同じニュースを流し続けた。
イヴを倒し全米を救った横島は、一躍時の有名人。
他の事件と一線を画した内容から関係者の氏名はすべて伏せられたが、最大の功労者が日本から仕事に来ていて偶然事件に居合わせたGSだという事がマスコミに流れてしまった。
他には性別くらいで、名や顔写真が流出しないのは幸いだったが、連日連夜の取材攻勢にGS協会の電話回線はパンク、職員の疲労もピークというように日常業務にまで影響が出始め、さすがにこのままでは皆に迷惑がかかると横島が打開策を練り始めた頃、人々の熱気が奇妙な方向に向かい出した。
『ゴシップ』である。
人は英雄譚よりもゴシップを好む。
なぜまったく表にでてこないのか、やましいことでもあるのか、から始まって、実は事件は政府のでっち上げで本当は軍が化学実験をしたに違いない、神の怒りに触れたのだ、宇宙人の仕業だ、などあらゆる憶測が巷を飛び交い、あまつさえ、あれは英雄扱いされているGSの自作自演だ、などという噂まであった。
正体が分からないからこそ、より無責任に話は膨らみ、有名税というやつで横島の弟子を名乗る者や自分こそが皆を救ったのだと説く宗教家まで現れ、合衆国政府はというと、民衆から保護するという名目でGS協会に横島の身柄引渡しを秘密裏に求めてきた。
横島の拒否権などないに等しく、要求が呑まれてしまえばどんな末路を辿るのか想像するまでもない。
母国である日本は大国に弱いし、横島は治外法権を使えない。
ゆえにかなり焦ったが、なぜか急に協会側が拒否、合衆国政府も期限付きの協力要請――――もちろん絶対の身の安全を約束するとの確約を取り付けた――――へと変わった。
あとで聞いた所によると、美神たちがありとあらゆる手段を使って弱みを握り、その一部を公開するという手段をとったお陰らしい。
意外なことに、これには神魔族も手助けをした。
大戦を人間の手に委ねてしまった罪滅ぼしでもあるのだろうが、そもそも神魔族は横島をそれほど危険視していない。
人間からすれば、彼らの推し進めているデタントの不安要素である横島を消さないのは理解できないが、彼らにとって必ずしもPEは脅威ではないのだ。
人間とは違って必ずしも肉に縛られていないことや、PEは新手の超能力のようなものでその通用する範囲や力はあくまでも横島自身の意志や能力レベルに留まることが挙げられる。
つまるところ、ある程度の結界を張っていればPEは効かない、寝込みを襲えば人間だって彼を殺せるのだが、彼も日々鍛錬しているのでこれを実行するのはかなりの難題であろう。
横島の仲間にとっては結構なことである――――もちろん西条にとっても。




△記事頭
  1. ルシオラ復活してんですか〜♪しかもゴシップがおきた時はGSメンバー総力をあげてとても「らしい」やりかたで黙らせたようで。心配まるでなしですね。
    西条もアシュ編でやろうとしてた横島とルシオラの共暮らしで美神から離れさせよう作戦が実現してるから仲良くなってますね〜。神魔族は全然危険視してないから快く迎えてくれるし。なんかミトコンドリアばんざいって感じ?
    貧乏神にありがとうと大喜びする横島を思い出します。ぶっかけ今の俺がその状態です。妙神山での生活を夢想してうふふふふと。
    九尾(2004.11.15 00:24)】
  2. 九尾様>横島を西条が嫌っているのは同族嫌悪みたいなものじゃないかと思ったのです。女に対しての。オカGは公務員ですが、無能なやつが運とコネで出世するほど甘くはないはずで、西条は才能がある者を私的な理由で邪険にするほど愚かではないと思いたい私の希望でこうなりました。
    第二話は流血シーンがありますが大丈夫でしょうか。バイオハザードよりはかなりマシだと思うんですが・・・。
    春菜(2004.11.15 21:41)】

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