横島育成計画・本章０３（ＧＳ）

「あの～、変わった壺を見つけたんですけど・・・」

ゴミを捨てにいった幽霊少女・おキヌが拾ってきたのは、
人の顔が彫刻されている不気味な壺だ。

「お花とか活けようかと思ったんですけど・・・」

「十中八九、枯れるわよ？」

タマモが、机に置かれたその壺を見ながら言う。
それほどに、不気味な感じが漂う。

「見つけたわ」

部屋に入ってきた令子は、
大きなカタログのような本を持っていた。

「精霊の壺。時価二十億ってとこかしら？」

「へ～。開けてみよ」

好奇心旺盛なタマモが嬉々として蓋を開けると、

「ボハーッハッハッハッハッ」

むさい精霊が現れた。

「我が名はイフリート。全知全能の聖なる壺の精霊なり」

「本物なんだ」

令子の目が輝く。
タマモの経験からいうと、売ってやろう、とか考えている目だ。

「ボハハハハハッ、驚いたか、ボハ・・・ゲホッゲホッ」

「本物・・・よね？」

むせる精霊に、今度は疑いのまなざし。

「アラーの神との契約だ。それぞれ願い事を三つ言うが良い」

「は～い。じゃあ、まずはわたしね。わたしからお願い」

「わかった。お前からにしてやろう、あと二つ」

　ズテンッ

転ぶタマモ。
令子はあきれたような目で眺めている。

「ちょっと待ってよ。今のも願いになっちゃうわけ？」

「・・・・・・」

「何とか言いなさいよ！」

「なんとか」

「・・・＃」

「終わりだな。ちょっと待ってから、なんとか、と言ってやったぞ」

怒りに打ち震えるタマモと。
笑いを抑えようとして、ふるえている令子。

「ぷぷっ」

「笑うな！」

タマモは涙目だし、令子はソファの上で転げている。
なかなか楽しそうな仲である。

「くすくす、あんたあれでしょ。悪さしたせいで、罰を受けてるんでしょ？
　で、今みたいに手っ取り早くノルマをこなそうとしてるわけね？」

「ぎくっ」

「な～るほど。そういうことなのね・・・」

怒れるタマモが、扇を振りかぶり、
そして、令子が言う。

「じゃあ、わたしの一つ目のお願いね。一発喰らいなさい」

　ズギャン

タマモの一撃を受けて壁にめり込む。

その後、イフリートと、令子が、
相手を陥れようと、対決していたところに、

「ちはーっす。」

忠夫がやってきた。

「おっかえり♪」

ぎゅっと抱きつくタマモ。

「ぎゃー、だから、抱きつくな～」

ちょっと、羨ましげに見ているおキヌ・・・・・・と令子。

この事務所でも、お約束ごとだ。

「えっと、なんすか、こいつ？」

「願いを三つ叶えてくれる壺よ」

でも気を付けないと、とタマモが注意しようとしたのだが、

「そりゃ良かった。今日は地下の倉庫を片づけないとダメなんですよね。
　だから手伝え。そのあと、おキヌちゃんの買い物の手伝いな。
　それから、車の掃除を頼むわ」

「・・・・・・」

ぽんぽんと願い事を三つ言う。
一瞬、目を丸くするも、にやりと笑う二人の女性。

「あ～ら、どうしたのよ、イフリート。三つ言われたわよ？」

「曲解のしようもないわよね？」

「よ、容赦のない小僧だな・・・」

男に対しては、シビアな忠夫であった。

「じゃ、改めまして、こんちは」

「いらっしゃい、忠夫くん」

「相変わらずきれいですね、令子さん」

「あら、正直ね」

令子と忠夫のこんなやり取りも、すでにお約束だ。
タマモの教育の副作用というか、
だれにでも、こんなことを、しかも自然に言うようになった。

人によっては、ひくかもしれないが、
令子の方も、まんざらじゃないらしい。

タマモも、この点に関して修正をあきらめつつある。

「今日はＭＨＫからの依頼ですよね」

「ええ、今日来て、詳しい説明をするってさ」

「けっこう大手だから、大きな仕事になるかも知れないでしょ。
　だから、全員で処理するわよ」

タマモも令子も優秀なため、
二人とも必要という件は、わりと少ない。
ＧＳ資格を持っているものが二人いるのは、なにかと役立つ。
仕事の数も多くこなせるし、
質の高い仕事もこなせる。

壺の精霊イフリートが、
割烹着を着て、三角巾して、はたきを持って、地下の掃除をしている間に、
テレビ局の人間がやってきた。

「これを見てください」

と、映されたのはシャトルからの映像で、
人工衛星にエイリアンのような影が映っているが、

「グレムリンね」

「へー、これが？」

れっきとした地球の妖怪の一種だ。
機械いじりが好きな悪戯妖怪で、
飛行機を落としたりと質が悪い。

「登って、降りられなくなったんですね？」

「おキヌちゃん。猫じゃないんだから」

「でも、それほど難しい件じゃないわね」

「そのぶん、めんどくさいけどね」

「「ッてことで十億！」」

ちょっと、令子に染められているタマモであった。
いや、それとも地か？

「タマモ姉も、あんなに要求せんでもええのに」

「あーら、可愛い忠夫が苦労するんだから、
それくらい取っておいて問題ないわよ」

「そうね」

うなずき合う令子とタマモ。
なんとなく、いやな予感がする。

「・・・オレが、苦労？」

「そうよ、幽体離脱して宇宙まで行ってもらわないとね」

「い゛？」

「まあ、可愛い子には旅をさせろって言うし」

「いや、あの、ちょっと宇宙は遠慮したいかなー、なんて・・・」

「「頑張ってきてね？」」

なんだかんだで、気の合う二人。

「これも忠夫くんのためを思ってのことなのよ、ぐすぐす」
「そうそう。いろいろと経験するに越したことないしね、うるうる」

泣き落とし？　っていうか、どう見ても笑とるやんかー！！

横島忠夫。
ドキドキ初幽霊経験＆わくわく初宇宙飛行♪

「あの・・・あんまり、経験したくないような・・・」

「冥子の修行相手するより、断然ましだって」
「そうそう、余裕よ、余裕」

結果、おキヌちゃんに伴われて、宇宙へ向けて、
忠夫は昇天した。

「昇天言うなー！　不吉な表現すんなー！！」

無限に広がる大宇宙。
地球は青く、暗い空間が星々を抱く。

が、決して、神秘的なだけの場所ではなかった。

「寒っ、寒ぅー」

実際に行くよりも、
遠くから見た方が良いという点は、富士山なんかと一緒だ。

「しかも、風強いし・・・」

空気ではなくエネルギーの風、太陽風だ。

「あれ、向こうから霊波がスゴい速さで迫ってきますよ？」

「へ？」

　ゴオッ

人工衛星が直撃確実コースで迫ってくる。

が、

「ふっ、なにほどのこともないな。
　こんなの、インダラの速度と、ビカラの質量に比べたら・・・」

得意気に軽く、かわして、つかまる。でも、

「苦労してるんですね、横島さん」

おキヌちゃんの同情に、なぜかちょっぴり泣けた。

そのころ、地上、事務所では、

「ちょっと、なんで令子が膝枕してんのよ」

「え、べ、別に他意はないわよ。か、会話するためだけよ」

「だったら、わたしでも良いじゃない。交代しなさいよ」

「ちょっとくらい、いいじゃない。所長権限よ」

お姉さん方が、忠夫の体を取り合いしていた。

現在、グレムリンと格闘中で、
焦ったおキヌの報告が届いているのだが、
まるで、気づいていなかった。

「わたしの弟なのよ！」

「わたしだって、お姉さんみたいなものじゃない！」

「どこがよ！」

再び宇宙。

忠夫は考える。

くそっ、確か令子さんに借りた資料では、
グレムリンはきれいな歌声が苦手だったな。

「おキヌちゃん、子守唄でも歌ってくれ」

「え？　眠りについて成仏でもする気ですか？」

「ちがーう！！」

除霊もなかなかに大変なものである。

「横島さーん。なんか卵がありますよ？」

なんとか、おキヌの歌声で追い払ったあと、
人工衛星の羽に、大きな卵が付いているのを見つけた。

「そっか、これを守ってたんか。気づかんかった。
　悪いことしてしまったかなぁ・・・」

少し表情を暗くし、
反省して呟く忠夫をよそに、

おキヌは卵を大事そうに抱え、嬉しそうにしていた。

「今日の晩ご飯、ゲットです！」

「喰うなー！！」

「え？でも因幡様は、こういうものも美味しそうに食べてますけど・・・」

おキヌちゃんの中では、因幡は様づけらしい。

食物連鎖のトップなのだろうか。

因幡＞おキヌ＞他の霊や妖怪・・・？

「・・・・・・。頼むから喰わんといたって・・・」

忠夫の苦労は続く。

〔あとがき〕
忠夫が一人、苦労する話でした。
そして、ついに、ナレーションへの突っ込みスキルを獲得。

うちのおキヌのキャラも路線が決まってきた様子。
この事務所、まともなキャラはいないのか！

次回、またまたオリキャラ登場。

忠夫の性格上とストーリーの展開上、
ある程度、必要になるだろう役割を担う、サブキャラとして用意。

必要と思えば平気で殺戮するジャンヌ。
ＧＳの外側の立場である理解者としての小萌。
この二人以上に、ある意味重要かも。
お楽しみに。

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