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「イジー版まぶらほ メイド編−第1話(第9話) (まぶらほ+いろいろ)+お知らせ」イジー・ローズ (2004.11.19 19:40)




皆様からご指摘が多くあったのでこちらには新作のみ(メイド編からです)投稿することにしました。第1話から第7話は、華の残照にあります。






「なあ、玖里子ねえ」

「なあに?和樹」

「俺ら今どこに向かってんだっけ?」

「マーシャル諸島よ」

「それにしては、角度がえらいななめ下に向いてないか?」

「このままだと海に墜落するわね」

「ったくなにやってんだよ玖里子ねえ」

「そうですよ、玖里子さん」

「なに落ち着いてるんですか、みなさん!このままだと私たち死んじゃうかもしれないんですよ!!そんなのやだあ・・・あ、い、いやあああああああああああああああああああああああああ・・・



「・・・・おい、・・・・おい夕菜、おい!」

「う、うーん」
夕菜はゆっくりと目を開けた。

「よかった。気が付いたか」

「和樹さん・・・・?」

「おーい、玖里子ねえ、凜、夕菜が気が付いたぞ!」
和樹が二人を呼ぶ。それを聞いた玖里子と凜が駆け寄ってきた。二人とも、夕菜を見てほっとしたような表情をした。

「大丈夫?夕菜ちゃん、あなただけ気絶してたから、私たち冷や冷やしたわよ。せっかく病気が治ったのに、また死ぬんじゃないかと思ったわ」

「乗ってた飛行機はどうなったんですか?」

「あそこです」
凜が指さした方を見ると、飛行機が海に半分沈んで煙を噴いていた。

「ちゃんと残ってる・・・・着水できたんですね!」

「ううん、和樹が魔法使ったの。私としては魔法なんか使わなくても、着水させる自信あったんだけどね・・・」
そう言って和樹の方を見る。

「いいじゃねえか、別に」
和樹がそう言うと、飛行機がボンと音を立て、部品をいくつかばらまいて、それきり沈黙した。

そもそも旅行を言い出したのは玖里子だった。彼女の叔父だか叔母だかの所有するコテージが、南の島にあるらしい。今度の連休に、そこで夕菜のお祝いをかねて遊びに行かないかと。全員賛成した。

グアムまではまだよかったのだが、玖里子がここで乗り換えて別の島に行くと行ったとき、夕菜は、一抹の不安が胸によぎった。しかもパリキールでまた乗り換えて、マーシャル諸島が終点だと聞いたときは、ざわめきがかなり大きくなっていた。

最後に乗る飛行機はセスナに毛の生えたようなフランス製で、プロペラがときどき異音を立てていた。おまけに操縦は玖里子であった。

下りるだの帰るだのひと騒動あり、押し込められた夕菜と共に機体は飛び立った。

意外と玖里子の操縦はうまく、スムーズに飛行は続いた。彼女によると「この手の機体は何度も使ったことがある」とのことであった。

これなら無事に到着すると思い、ようやく外を眺める余裕が出てきた瞬間、トラブルが起こった。

見知らぬ島にさしかかり、突然大きく揺れたと思ったら、エンジンが火を吹いたのである。まるでハンマーで叩いたような衝撃が続き、機体は大きく傾いた。

そのまま海に急降下。玖里子が立て直そうとしたがどうにもならず、着水する寸前、和樹が魔法を使い助かったのだが、夕菜は気を失った。

夕菜は立ち上がり、砂についた砂を払った。

「大丈夫か?夕菜」
和樹が声をかける。

「はい。なんとか・・・。和樹さんたちは」

「俺たちは平気だ」

「よかった・・・・・。でも、なにがあったんでしょう」

「さっき凜と調べていたんだけど」
玖里子が言った。彼女は指で丸を作り、

「翼にこんな大きな穴が空いてたわ。エンジンの方もやられてた」

「まさか、玖里子ねえ」」

「どうやら銃撃を受けたみたい。対空砲火のようね」

「たい・・・・ええっ!?」
夕菜は目を丸くした。玖里子は肩をすくめ、

「私もおかしいとは思うけどさ、どうみても弾痕なのよね」
振り返って、水に浸かった飛行機を見た。下から撃ち抜かれた穴がうかがえる。エンジン部には切り裂かれたような痕があった。

着水で破損した部分を除けば、確かに外部から破壊されたようにしか見えない。玖里子の言うような、対空砲火なのだろうか。

だとすると、ここには誰かいることになる。なぜ撃たれたのかはわからないが、どうも友好的ではないようだ。少なくとも頭の上を飛ぶものを、力ずくで追い払うくらいアンフレンドリーであった。

和樹は陸のほうを見た。そこにはジャングルが広がっている。今のところは静かで、誰かいるようには感じられない。だがそこから銃撃をされていた。

不安な面持ちで夕菜が訊いてくる。

「どうしましょう・・・・・・」

「そうだなあ・・・・・」

「移動しませんか」
凜が言った。

「海岸から離れるのは好ましくありませんが、雨でも降られたらことです。それにいつまでもここにいると、日射病になります」
もっともな意見であった。全員砂は見飽きていた。

四人は、ジャングルの中に入った。

ジャングルと言っても、南米のものとは違い、地面が植物に覆われておらず、土地が痩せているのか下栄えもあまりなく、歩きやすかった。

「あの、玖里子さん」
夕菜が声をかけた。

「なに?」

「この島って、どこですか」

「うーん、最後は計器が壊れちゃったからよく分からないんだけど、北緯十度前後、東経百六十度あたりかな。東カロリン諸島のあたりだと思うんだけど」

「東カロリン諸島・・・・そこ、地球なんですか」

「一応ね。ミクロネシア連邦。このへん島ばかりで厄介なのよ」
彼女は顎に手を当てた。

「上から見ると、どこも似たような形でしょう?無人の島も多いし、困るのよ。フライトプランは出てるから遭難したことに気づくでしょうけど、問題は助けが来るかどうかよね。船もないし」
さすがに玖里子の声も小さくなる。

「まあ、なんとかなるだろ。いざとなりゃ瞬間移動でもなんでも使えばさ。それに、ここが無人だって決まったわけでもないし」

「なんだか乱暴な人たちがいそうですけどね」

しばらくすると、ジャングルは上り坂になった。島の中央に行くに連れ、標高が高くなっているのだろう。木々は徐々に密度を増し、それに比例して歩きづらくなっていった。

一向は、和樹が先頭に立って進むようになっていた。一行の中では、彼が一番体力がある。部活には入っていないが、体育会系の部に常に勧誘されているのだ。

「ん?」
和樹が止まった。

「今銃声が聞こえなかったか?」

「うーん、別に聞こえなかったけど」「私も」「私も聞こえませんでした」

「そうか・・・・・ん?」
和樹は地面を調べ始めた。

近寄った。そこだけジャングルが開けていて、道になっていた。

幅は結構広いが舗装はされていない。土のままである。そこに細かい段差がつけられ、ずっと奥まで続いていた。

「轍ね。トラック?」
玖里子がつぶやく。キャタピラの跡がついているのだ。

玖里子は和樹の隣で、土を指ですくった。
「湿ってる。ちょっと前に通ったみたい」

夕菜は屈み、横から覗き込んだ。

「じゃあこれをとどれば、人家に着くんですね」

「多分・・・」
玖里子の言葉は途中で途切れた。ジャングルの奥で物音がする。

繁みをかき分ける音。複数の荒い息づかい。叫び声。そしてなにかが破裂するような連続音。

「銃声!?」
正真正銘の発砲音を聞き、夕菜は思わず声を上げた。同時に草むらから飛び出す人影。

「くっ!うわっ!」
まるでタックルするように接近してくる。一人が和樹を踏みつけ、もう一人が飛び越えた。反対側の繁みに消えていく。

「・・・・・女の子!?」
スカートをはいた少女たちだ。自分たちが走り抜けてきた方向に、銃を乱射している。

ジャングルからも彼女たちを狙うように弾が飛んできて、あちこちに着弾した。

一瞬だけ銃声が止む。夕菜と玖里子は歩いてきた繁みに急いで飛び込んだ。凜はやや離れた場所に伏せる。

少女たちの通過点となった和樹は、動くのが遅れた。

ふっと空白が生まれる。周りに誰もいなくなった。逃げ出そうと身体を上げる。が―いきなり、真っ正面に女性があらわれた。

再び銃弾が飛んでくる。避けようとするが、足をもつれさせ、女性の上に倒れ込む。

弾丸が服をかすめた。立木がはじけ、和樹は彼女にのしかかるようになる。しかもそこは、登ってきた斜面だった。

彼女をかばう形になったのは、おそらく偶然だ。

「どわーっ!」
和樹は女性を抱えたまま、斜面を滑り落ちていった。





話は少し前に遡る。場所は彩雲寮。

「〜♪〜♪」
和美は鼻歌を歌いながら、和樹の部屋に向かっていた。

「やったやった。福引引いたら、1等のマーシャル諸島ペア旅行のチケットが当たっちゃった―。これで和樹君を誘って二人でラブラブ旅行・・・・ウフフ、そんでもって海で泳いでー、食事してー、それから・・・・ホテルの部屋でついに和樹君と・・・・キャー!恥ずかしい。でも、もし一線をこえちゃったら・・・ウフ、ウフフフフフフ・・・・」

いろんなことを想像してると、和樹の部屋に着いた。

コンコンコン、「和樹君」
返事がない。

コンコンコンコンコン「かーずーきー君、いないの?」
返事がなかった。

「なんだ、いないのか・・・・。まあ、いいや。また後で来よう」
和美が和樹の部屋を後にしようとすると、

「あら、松田さん?どうしたの。式森さんなら今いませんよ」
管理人の尋崎華麗が言った。

「管理人さん、和樹君がどこに行ったか知りませんか?」
和美は華麗に訊いた。

「式森さんなら、今ごろマーシャル諸島じゃないかしら」

「マ、マーシャル諸島?」

「ええ、なんでも風椿さんとこの叔父さんだったかしら、その人が所有するコテージがそこにあって、この連休で、宮間さんのお祝いをかねて、宮間さん、風椿さん、神城さんと四人で遊びに行きましたよ」

「・・・そうですか、ありがとうございました」
和美は礼を言うと、華麗は階段を下りていった。

「あいつら・・・・せっかく私が先に和樹君を誘ってあんなことや、こんなことしようと思ってたのに、抜け駆けしたわね。夕菜ったら和樹君に興味ないって言っておきながら自分だけ・・・あの巨乳女も剣道チビもそう。こうなったら私もそこへ行って、あいつらから和樹君を助け出さなきゃ、そうよ、そうだわ!それから二人でゆっくり旅行を満喫するの。それでホテルであんなことやこんなこと・・・・・
ウフ、ウフフフフフフフフフフ・・・・・・」
和美が妄想にふけっていると、

「今の話全部聞いたわよ、和美」
振り返ると、そこには沙弓をはじめ、B組女子全員が立っていた。

「全部聞いたって・・・・」

「そ、あなたが尋崎さんと話していたところから全て。いないはずよね、マーシャル諸島にいるんだもんねえ」

「だから?だからなんだってのよ。これは渡さないわよ!」

「いらないわ。そんなもん」

「・・・・・へ?い、いらないの?」

「いらないわ。欲しいって言って欲しかった?」

「い、いやそう言われても困るけど・・・なんで?」

「チケットはいらない、でもあなた一人では行かせない」

「ま、まさか・・・・」

沙弓たちはチケットをピラピラさせた。しかもマーシャル諸島行きのチケットであった。和美は唖然とした。

「・・・・なんであんたたちまでそんなもん持ってんのよ・・・・」

「そんなのどうでもいいでしょ、早くあいつらから和樹君を取り戻しましょう」
沙弓はそう言うと、和美の手をつかんだ。

「あ、あは、あははははははは・・・・・・」
和美はもう笑うしかなかった。





舞台を戻そう。

柔らかな手の感触が額にあった。ゆっくりなぞっている。女性が薄めを開けている和樹の顔をじっと覗き込んでいた。

綺麗な娘だなあ、というのが第一印象だった。和樹は、美人をしょっちゅう見ている。夕菜も玖里子も凜もB組女子も人並み以上の容姿である。彼が通っている葵学園にも美少女はいる。ブス娘は皆無といってもいいくらいである。眼福という意味では、並みの高校生より遥かに恵まれている。じゃあ異性に慣れているかというと、和樹はすごくもてるが、女はあまり得意ではない。

目の前の女性は、三人とは別の美貌であった。顔の作りが欧州系の典型的な美人である。年は分からないが、和樹よりは上そうだから二十そこそこだろう。

小さな唇が開いた。

「zu・・・・」
彼女は発音を途中で止めた。(今のはドイツ語・・・)ついで、

「大丈夫ですか?」
流暢な日本語で言った。心配そうな口調だった。

「あ、ああ」
和樹はあいまいに返事をした。身体を起こす。

女性は気配をうかがうように、斜面の様子を見ていた。銃声はしない。先ほどまでの騒ぎなどなかったかのように、元の状態に戻っていた。ほっとしたのか、改めて和樹に向き直る。

「もう敵はおりません。引き上げたようです」
彼はぼんやりと、女性の言葉を聞いた。なんだか分からないが一息つけるらしい。敵、という単語が引っかかったが。

「危険は排除しました。災難に遭われたようですが、心配いりません」

「そう・・・・よかった。ありがとう」

「え・・・・・」
何故か(ここではちょっとこれはおかしいかもしれませんが)、女性の顔が朱に染まった。

「いや、なんか助けてくれたみたいだから」

「そんな・・・・。当然のことです。過分なお言葉、もったいのうございます」
彼女は赤面しながら、和樹に近寄った。

「お怪我があるようであれば、おっしゃってください。すぐに手当ていたします」

「いや、平気だよ」

「そうですか?」
彼女が腕を取った。さするように手を動かしていた。傷と、関節をひねったかどうか確かめているのだろう。和樹は指先にくすぐったさを感じ、腕を引っ込めた。

「いけません」
静かだが、怒ったような声。

「いや、でも」

「本来なら、即座に捜索隊を編成して救出するつもりでしたが、戦闘に巻き込まれてしまいました。これで怪我をされていては、私たちの忠誠が問われます」

「俺を助けるつもりだったのか?」

「さようです」
意味深なことを言い、再び彼女の指は腕を触り、肩、首筋をなでていく。魅力的な顔が、くっと近づいた。

「だからくすぐったいって」
和樹は女性から再び離れた。女性がまた注意をする。

「駄目です。怪我は初期治療が一番肝心なのです。ご自分では平気だと思っているようでも、万が一のことを・・・・」

「いいって!」
慌てて遮った。彼女がオーバーな物言いだったからだ。冷静な女性に見えるが、本気で和樹を案じているように聞こえる。嬉しいことではあるが、反面、しつこいくらいの世話焼きでもあった。

世話、で気づいた。彼女の服装を眺める。特徴があった。

「なにか?」
和樹の視線に、聞き返してくる。

「その格好・・・・」

「和樹さん!」
頭上から声がした。横向きになって、足元を確かめるようにしながら、夕菜が降りてくる。

「・・・・・・・・・?」
女性が怪訝な顔をする。

「あ、俺の名前。式森和樹っていうんだけど」

「はい。それは存じておりますが・・・・」

「え?」

夕菜が近寄ってきた。捜していたのだろう。息を切らしていた。

「無事ですか!?怪我は・・・・」

「なんともない。この人が気を遣ってくれて・・・・・」
そこで和樹は言葉を詰まらせた。女性が警戒するように身体を引き、どこから取り出したのか、手には拳銃を持っていたのだ。

先ほどまでとはまるで違い、世話やきさんから兵士の顔になっている。銃口は夕菜に向き、人差し指が引き金にかかっている。小さい音がして、安全装置が外れた。夕菜は驚き、硬直していた。

「近寄るな」
女性が硬質の声で喋る。

「な、なんですか、あなたは」
拳銃を気にしつつも、夕菜は言い返す。

「和樹さんをどうしようと・・・」
女性はなにも言わない。ただ銃口をぴたりと合わせていた。夕菜もその場から動けない。しばらくそのままだった。だが、それほど時間はたたなかったと思う。

「ちょっと、なにしてんの?」
玖里子の声が聞こえた。ほぼ同時に、和樹の背後からも別の声。

「housekeeper,Liera!」
女性は一瞬だけ後ろに顔を向け、すぐに戻す。少しのあいだ夕菜を睨んでいたが、彼女は不意に背を向け、駆け出した。その姿はすぐに、木々の奥へと消えていった。

残された二人は、しばし茫然としていた。木々をかき分けて玖里子が現れる。

「どうしたの。平気?」

「平気は平気なんだが・・・・玖里子ねえ、メイドって知ってるか?」

「知ってるわよ。それが?」

「そのメイドがいたんだ。ジャングルの中で拳銃持ってな」

「はあ?」

玖里子が胡散臭げな声を発した。胡散臭いのは和樹も同感だが、事実なのである。さっきの女性はメイドだった。着ていた服がそれを証明していた。

「なんだったのでしょうか」
夕菜がつぶやく。

「ああ、しかも拳銃持ってたし」

「私、メイドさんに知り合いはいません」

「俺もいねえよ。やけに親切だったけど」

「親切だったんですか?私にはすごく敵意をもっていたみたいですけど」

「そういえばそうだな」

「メイドのことなんて考えてもしょうがないわよ。いずれ分かるんじゃないの。それより、さっきの道をたどりましょう。人家があるかもしれないわよ」

「銃撃戦は」

「凜と見張っていたけど、あれっきり終わっちゃったわ。行きましょう」
滑り落ちた坂を上った。道では凜が待っていた。身をさらしてるところをみると、もう危険はないらしい。

一行はトラックの轍を歩いた。見失わないよう、ゆっくり進む。

ジャングルが切れた。ぱっと視界が広がる。

「建物がありますね」
凜が指さす。小高くなったところに、石造りの建物があった。

「ああ・・・・でもあれ、建物というよりどう見たって城だろ」
和樹は言った。視線の先にあるのは普通の建築物ではなく、西洋の城なのである。南洋の孤島にはミスマッチだった。

「どうしてこんなところに・・・」

「さっきのメイドと関係あるんじゃないでしょうか」
夕菜の言葉に、しばし考えた。撃墜されてメイドに会い、今度は城。関係があるのかもしれないが、それにしても突拍子もない話だ。

「誰が住んでるんだ?」

「入ってみれば分かりますよ」
四人は近づいた。それほど行かないうちに前庭が見えてきた。

妙に静まりかえっていた。人のいる気配はあるが、姿が見えない。それどころか緊迫した雰囲気すらあった。

巨大な扉の前に立った。呼び鈴代わりのひもがあったので、引く。

しばらくして、扉が開いた。中から、背の低いメイドが現れた。大人しそうな感じである。地味めで、眼鏡をかけているのが特徴らしい特徴だ。

「はい、どちらさまですか」

「あー、すみません。えーと、道に迷いまして、いや、迷ったというか遭難しまして」

「・・・・・・・・?」
彼女はこくんと首を傾げた。和樹は続ける。

「実はその、飛行機で旅行中に墜落したんです。いや、墜落というか撃墜されて。弾痕の跡があったもんで」
メイドはなにかに気づいたような顔をした。

「・・・・あななたちだったのですか」

「え?」

「よかった・・・・・。もう一度、捜索班を出すところでした」

「なに?」

「しばらくお待ちいただけますか?」
奥へ引っ込む。和樹たちはなんだか理解できないまま、その場にたたずんだ。メイドはなかなか戻ってこなかった。

かなり待たされる。再び扉が開いた。

「お待たせしました。申し訳ございません」
メイドは頭を下げた。さっきとは別の、銀髪の女性だ。

「いえ・・・・・って、ああ!?」
和樹は驚いて彼女を眺めた。少し前に密林で遭遇した、あのメイドだったのである。

「先ほどは失礼いたしました。わたくし、リーラと申します」

「どうも・・・」

「お疲れでしょうが、主人から、中へお通しするように言われております」

「はあ・・・・」

「ご案内いたします・・・・後ろの方たちは?」
リーラがかすかに表情を固くした。

「あ、俺の連れ・・・・っていうか、俺が連れられてきたんだけど」

「そうだったのですか」
彼女は思案する様相だった。やがて、「では、ご一緒にこちらへ」と言った。

ゆっくり歩いていく。四人は後に続いた。

やがて、扉の前に来た。

「中へどうぞ。主人がお待ちしております。あ、女性の方は」
和樹の真後ろにいた夕菜は、やんわりと制された。リーラ扉を少し開け、中になにごとか言う。すぐに、メイドの一人が出てきた。

「あれ、あの人・・・」
そのメイドに和樹は見覚えがあった。

「彼女はネリーと申します。このものが案内しますので。あちらへ」

「え、和樹さんと一緒じゃないんですか」

リーラは軽くうなずいたが、あとはなにも言わなかった。仕方なく、夕菜たちは別室へと歩いていった。

和樹は一人だけ残された。ずっと別室の方を見ていた。

「式森様、どうぞ中へ」
リーラが扉を大きく開けた。広い部屋の中に入った。椅子に座ろうとして―危うくひっくり返りそうになった。そこの中央にしつらえたテーブルに男がいた。欧州貴族の末裔みたいな老人だった。だが和樹がそうなったのはそんなことではない。壁際に、ずらりと女の子が並んでいるのだ。

「・・・・・・・」
三、四十人はいるだろうか。背の高さも髪の色もまちまちだが、皆十代後半から二十代前半のようだ。顔立ちの美しい娘たちが、身じろぎもせずに立っていて、和樹のことを待っている。

驚くべきことに、全員が紺色の服を着ていた。彼女たちは一人残らず、メイドなのであった。

「いや、よく来てくれた。さあこっちへ」
茫然としている和樹に、老人が言った。最初に出てきた眼鏡のメイドが、椅子をひいてくれた。

メイドがなれた手つきで紅茶を注ぐ。老人にはリーラがついていた。彼はいかにも嬉しそうな表情だった。

「この島に男はわししかいなくてね。若い人は大歓迎だ」

「はあ・・・・・・」
紅茶をすする。

「ゆっくりしてくれたまえ。寝室は用意させる」

「どうも・・・・」
和樹はメイドたちを見た。彼女たちはピクリともしなかった。

「彼女たちは、この屋敷の使用人でね、わしがこの島に移る前から雇っている者たちがほとんどだ。よく働く、有能なメイドだよ」

「それにしては多くないですか?」

「百五十はいるな」

「ひゃ、百・・・・」

「わしのメイドたちは少ないほうだぞ。同士の中には五百人ほどつかっているものもいる」

(そんなに雇用してどうすんだよ・・・・)

「疑問に思っているみたいだな」

「・・・・そりゃまあ」

「若い君は知らないかもしれん。私はMMMの会員なのだよ」

「は?なんですかそれ」
和樹もそんな名前は聞いたことがなかった。老人は説明した。その後、和樹は遭難したことを話した。

「そのことは知っている。実は君たちの乗機を撃墜したのは、わしたちなのだ」

「はあ?」
紅茶を吹き出しそうになった。

「本来なら、到着地の島に船を出して、君たちを迎えに行くはずだったのだ。ところがこの島は敵に備えて警戒態勢に入っていてな。つい敵機と誤認して射撃をしてしまった。もうしわけなかった」
つまり自分たちはこの島の住人、しかもメイドとその雇い主に打ち落とされてしまったのである。歓迎してくれているはずだ。

「あの・・・俺たちを迎えてくれるつもりだったんですか?」

「君一人だがね。連れがいるとは知らなかった」

「それに敵って・・・・。戦争でもしてるんですか」

「さよう。実はな・・・」
と、扉がノックされた。さっき夕菜たちを連れて行ったメイドネリーである。

「ご主人様、お連れいたしました」

「うむ」
老人がうなずく。和樹も一応姿勢を正した。

扉が大きく開かれた。夕菜、凜、玖里子の順に入ってきた。だがなんと、三人ともまったく同じ紺色の服を着ていた。そのかっこうはメイド。壁際に並んでいる彼女たちと同じかこうなのであった。老人はいかにも満足そうであった。

「この島では女性はメイド服を着ることになっていてね。同じ服を提供させてもらったよ」

「へ、へえ・・・・」
夕菜がにこにこ笑いながら近づいてきた。

「どうです、和樹さん」

「うーん・・・・まあ似合ってることは似合ってるけど・・・・なんかなあ・・・・・」

「いや、素晴らしいよ。この服がここまで合う女の子も、そうそうおらん。絵画から抜け出たようだ」

「ありがとうございます」
夕菜がぴょこんと頭を下げた。

「私こういうの好きなんです。ほらほら、和樹さん。可愛いでしょう」
笑いながらターンした。スカートがふわっと浮く。

「私はあまり好きじゃないなあ」
玖里子がぼやく。背の高い彼女には、スカートがやや短めだった。

凜はなにも言わなかったが、嫌がるそぶりは見せなかった。それなりに気に入ってるらしい。

老人は満足そうだった。そこにリーラが、耳元でなにか囁いた。白髪の頭がうなずいた。

「さて・・・これから諸君たちと歓談といきたかったが、そうもいかなくなった。急用ができたようだ。明日の朝にでもお目にかかろう」

「え。朝、ですか?」

「今週は重要なのだ。式森君、朝は必ずここにいてもらいたい」

「それは・・・・いいですけど」

「夕食は運ばせるよ。食事は豪勢なものを用意させる。楽しみにしてくれたまえ。そうそう、伝えるのを忘れていた。一つだけ守って欲しいことがある。ここで魔法を使うことは許されていない」

「魔法禁止、ですか?」

「そう。あとは自由にしてもらってかまわん。ではまた」
老人はそう言うと、大勢のメイドと共に退出した。

(・・・・・・・・・・・)
和樹は退出するメイドたちを見ながらネリーと、ほか数人のメイドのことを考えていた。

(彼女たち、どっかで会ってる気がするんだよなあ・・・・)




どうもみなさん、イジー・ローズです。
上にも書いたんですが、こちらには新作(メイド編からです)のみの投稿にします。第1話から第7話は、華の残照にあります。
今回の話も原作をベースに書きました。次回から募集したメイドを入れていこうと考えているので、次回からは違う話になっていくと思います。それではまた。



レスです。

紫苑様>
オリジナルキャラの提供ありがとうございます!!!私の中でキテますよ、このキャラ。
そこで気になったんですが、美なの「な」は、菜なんでしょうか、それとも奈なんでしょうか?

D,様>
今どうしようか悩んでます。

ニコライ様>
ありがとうございます!!!やっぱこういうレスがくるとやる気でますね。
嬉しいな〜♪

ジャッカー様>
私が見てきた中では、これから私がやることはまだ誰もやってないと思います。

アポストロフィーエス様>
今のところは協力させるつもりでいます。

早乙女様>
和樹と夕菜の性格はらんま1/2の影響はあります。

通行人A様>
新作のみの投稿にしました。

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  1.  MMM・パジャマ・B組女子の三大勢力の戦いですか・・・・・
     原作の比ではないほど戦況が混乱しそうですねぇ・・・・・

     最後に!和樹と制約したら何か問題があるのだろうか?
    D,(2004.11.19 20:03)】
  2. オリジナルキャラは花月椎奈・香奈に変えました。
    感想ですが、原作通り話は進んでいますね。
    前のサイト名は華の残照だったんですね。
    投稿インデックスで保存していたため、サイト名を忘れていました。
    三人目のオリジナルキャラです。名前は草薙詩賦(くさなぎしふ)です。
    見た目は銀色の髪をした遠野秋葉で3サイズは95/65/93/です。
    性格も秋葉で口調がアルクェィドです。好きな食べ物はカレーです。
    設定として、草薙家は千年間カレー教教祖として活躍していますが、
    詩賦はそれがイヤでメイドになりに来ます。
    魔法は使えませんが、魔法回数は八万五千回で
    魔法無効化という能力があります。
    戦い方は範馬勇次朗に花山薫です。
    紫苑(2004.11.19 20:21)】
  3. おおっ!?
    私の熱望するネリーがらみの伏線が!
    これは先が楽しみですね。
    それにしてもこのペースでの投稿は凄いですね。
    これからも頑張ってください。
    ニコライ(2004.11.19 20:53)】
  4. B組の女子はどうやって東カロリン諸島にいる和樹を見つけるのかが気になりますね。愛の力って言ったら・・・・・・・・。やはり誓約したときに彼女達にとって問題になるのは恋のライバルが増える事なんでしょうね。
    イジー・ローズさんの書かれるものはとても楽しみにしているので次回も頑張って下さい。
    アポストロフィーエス(2004.11.19 21:15)】
  5. ・・・あの二人もやってくるのか・・・?
    相当波乱の予感って言うか、和樹君はすんなりメイドの主になるのだろうか?
    結構楽しみ。
    それ以上に和美と沙弓のメイド姿が萌え。
    33(2004.11.19 21:27)】
  6. また、レスします。
    >33さん私も二人のメイド服に萌えました。
    追加オリジナルキャラです。
    名前は如月神奈(きさらぎしんな)です。
    見た目はD.C.の白河ことりです。
    3サイズは88/57/85です。
    性格と口調はジョジョのDIO様です。
    魔法回数は9万6千回です。得意な属性術は氷・風・雷・闇・無です。
    得意術はビッグバン・ブラックホール・ダイヤモンドダスト・トルネード・サンダーボルトです。
    得意な武器は剣で無限乱れ雪月花と残像無限乱れ雪月花が得意です。
    KAZUKI〜心の平穏を求めて〜第11話のレスに詳しく書かれています。
    紫苑(2004.11.19 21:46)】
  7. いったいどううなるんでしょう?予想としては和樹を助け出すために夕菜とB組女子が組んでメイドたちに向かって魔法を連発そして島は焦土とかし死の島になるとかそういった展開を予想できます。
    ゴマシオナイト(2004.11.19 23:08)】
  8. 確かにクラス女子全員がメイド編に参加するのは他になさそうな感じですね。
    あとは夕菜のメイドに対する反応がどうなるか気になってます。こちらの夕菜は和樹に対する激しい執着みたいなものはなさそうな感じなので、険悪ながらも屋敷に留まり続けるような感じかな? どうなるにせよ楽しみです。
    そうそう、ついでですが、尋崎さんの下の名前は華怜さんです。
    ジャッカー(2004.11.19 23:10)】

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