▽レス始▼レス末
「ヤミヨニサラバ(GS)」zokuto (2004.11.23 22:23)



 人の住む所なんてのは、見かけより安全じゃないのが普通だ。

 どんなに堅牢な塀を立てようと、どんなに用心深く鍵をつけても、あっさり破られることを覚悟しなけりゃならない。

 もちろん、相手が凄腕の泥棒や、人の心を知らぬ暴漢だけが自分の敵じゃない。

 近しい者の心の奥底に潜む憎悪、嫉妬、狂気……これにも気をつけなけりゃ、この世界で生きていくことなんざできやしない。


 ……おっと、自己紹介が遅れたな。

 俺の名は、伊達 雪之丞。

 職業は一応、ゴーストスィーパー……『裏』のだがな。

 ちっと昔にヘマをやらかして、魔族と取引していたのが表の連中にバレちまったんだ。

 今はお尋ね者として、表の連中からは追われている。

 もっとも表の連中に捕まるほど俺はヤワじゃねえけどな。




 今はこうやって、仕事場……俺みたいなヤツが吹き溜まっているバーで非合法な仕事を専門として扱っている。

 世間に公表できないモノを除霊、破壊、輸送なんかが一番代表的なもので、他にやったオカルト犯罪も枚挙にいとまがない。

 毎日荒事にまみれているわけじゃないが、暴力沙汰なんてのは日常茶飯事。

 なにかしらの犯罪に至っては、仕事をするたびに数十ぐらいは尾ひれみたいについてくる。

 まあ、小さい頃からそんなことはなれている。






 手の中に閉じ込められた白い液体の中でポッカリと浮かんだ氷を見ていた。

 チラチラと揺らめくバーの照明に、反射し、光を放っている。

「……雪之丞さんですか?」

 今日も、クライアントが来た。

 また、ろくでもないことが始まるのか。

「単刀直入に頼みます。 とある人の守護霊を全て絶ち切って欲しいんです」

 声の調子から、女だろうか。

 俺の隣の席には座ろうとせず、背後で延々と話しつづけてくる。

 普通は誰であろうと、クライアントであろうと背後を見せないのだろうが、これが俺のルールだ。

「まずは一杯奢りな。 話しはそれからだ」

 いつも通り、マスターにサインを出してもう一つのグラスを出させる。

 中には……ミルク。

 酒は嫌いじゃないが、この仕事に付いている以上は飲もうと思わない。

 もっとも、この仕事から抜けだすことが出来るなんて夢物語は適うはずもないがな。

「で、誰がターゲットなんだい?」

「これが本人の写真です、見れば解る通り、今急速成長中の会社の息子、世間ではとんでもない馬鹿息子だと言われてます」

「……なるほどねぇ。 よくある仕事だ。 目的と手段の範囲を教えてもらおうか」

「目的……ですか?」

 今まで淡々と告げてきた女だったが、ほんの少し戸惑う。

「なんでそんなことまであなたなんかに」

 『なんかに……』

 イヤな言葉だ。

 俺に相応しい言いぐさなだけに余計に腹が立つ。

「必要だからだよ。 この世に起こっている事象は全て原因があって、そこから結果があるに決まってるだろ。 その原因とやらを知ってなきゃ、俺は仕事をやりたくないんでね。 これでも完璧主義者なんだ」

 これは、詮索とは違う。

 仕事を行う為に必要な情報だ。

 妥協するわけにはいかない。

「……どうしても、ですか?」

「何、絶対言わなきゃならないってことはないさ。 他の、もっと馬鹿でお頭が足りないようなヤツに頼めばいいのさ。 ……ソイツが霊能力を持ってるかどうか、俺は知らんがね」

「……わかりました。 お話しましょう。 けど……」

「心配するな。 不正な職業だが、一応守秘義務ってものも存在しているんでね。 その点では安心してもらっても構わない。 隣に座っても構わんぞ」

 場慣れしていないのか、やっぱり堅気のヤツがどこかしらから情報を買ってノコノコと来たのか、不安感を丸だしにして座る。

 やはり、クライアントは若い女性だった。

 見かけ二十代前半、特に突出した美人とは言えないが、ここらへんでは見ない種類の女性……か。

「……まず報酬は、前金として二百万ほど、用意しました。 更にその後にもう二百万用意できます」

 悪くない……とは言い難いな。

 だが、今の金欠状態では背に腹も変えられんか。

「じゃ、話してもらうぜ。 それなりのリスクを背負うんだ、それなりのことをしてもらうぜ」

 薄暗いバーの中のランプの明かりに照らされた女の顔が、震えながら頷くのを見た。





























「……だ、誰なんだよ。 お前は……」

 仕事は全くもって簡単なものだったようだ。

 まさに馬鹿息子と冠するに値する馬鹿を、一目につかない……そうだな、例えば歓楽街の裏路地だが……そこに連れ込むのは、道端に転がる小石を蹴飛ばすより簡単なことだった。

 小石を蹴飛ばすのには足を動かさなければならないが、ヤツが裏路地に転がり込むのは俺が足を動かす事もせずに出来ることなのだから。

「……か、金か? 金ならいくらでもやるぞ、パパに頼めばいくらでも」

 素手の拳を手加減して馬鹿の鳩尾に打ち込む。

「うるせーよ、ゴミが」

 情けない声を上げ、地面にへたり込むクソ野朗。

 泡が口から漏れ、白目が剥かれている。


 つまらない仕事だった。

 毎度のことではあるが、こういうつまらない仕事をしていると、GS試験のあのときの戦いが懐かしくてしょうがない。

 全力を尽くし、自分と同じチカラを持った相手とのぶつかり合いは、見ているだけでも血が沸く。

 それを思い出すだけでも、一般人のクソを相手にしている自分がみじめに思えてしまう。

 まあいい、仕事は仕事だ。

 生きていればあのときと同じようなことがまたあるだろうし、死ぬにしろ、俺を殺せる相手と戦って死ねるのだから文句はない。

 そう溜息をつきながら、手を動かして魔法陣を描き、決まった呪文を唱える。

 すると、クソ野朗の口から実体化した精霊が現れた。

 コメディーに出てきそうな弾力性溢れる口ひげ、壮健そうな肉体を持ち、人間であれば初老ぐらいの男。

 それが精霊だった。

「ひゅ〜、人間のカスみたいなヤツにこんな高位な守護がついているたぁ、世も末か?」

『何用だ、我が孫からわしを引きずり出す無礼な霊術師よ』

 ピョンピョンと何かを喋るたびにヒゲが踊る。

「いやちょっとな、これも仕事だ。 お前の息子にハメられた人が復讐したいんだと。 だから、お前をこのアホから切り離させてもらう」

 そう言うと、ヤツはこれまたご立派な眉をピクピクと2、3度動かし、俺を無言で睨みつけてくる。

 どうやらご立腹らしい。

「グヌヌ……たちゅのりとわしの縁を切ろうなぞ不埒な輩め! やらせはせん、やらせはせんぞー!!」

 俺が言い返す間もなく、精霊は色とりどりの霊波砲を何本も同時に放ってきた。

 やはり、腐っても高位の精霊か、一発一発に人に致命的なダメージを与える威力があるぞ。

「くっ、サイキック・ソーサー!」

 その内一発、俺に当たると予測した一発だけを、霊波を固めた盾で弾く。

 他の霊波砲は全て外れ、虚空へと消えていく。

 そして、その隙を狙い……霊波の盾を投げる。

「やったか!?」

 守備だけでなく攻撃にも長けた盾は、まっすぐと精霊に直進してゆく。

 魔装術で身を固めた俺の腕にかなりのダメージを与えることの出来る盾だ、霊的な存在である精霊にはフェイタルなものなのも当然。

 ただ……俺の考えているほど、この守護霊は弱いものではなかった。

「ぬおおおっ! まだ、まだまだだーっ!!」

 サイキックソーサーが、魔装術以外での最強の攻撃が、かわされた。

 いや、正確には、その投射した軌道が曲がり、自分から外れたのだ。

 盾は壁に突き刺さり、音もなく消える。

「わしを甘くみるなよ、小僧! わしのたちゅのりに対する愛は無限なのだーっ!!」

 体を霧状に変化をさせる守護霊。

 守護霊のエアリアル……大気の精霊……まさか人につく霊で高位どころか風に属しているとはな。

 だが、この攻撃は昔戦った強敵を思い出させるパターンだ。

「お前には攻撃できまい。 わしのたちゅのりに謝るというのなら、命だけは許してやるぞ」

 体を霧状にしたまま話しかけてくる、孫を溺愛するじじいの霊。

「ふん、命の保証は遠慮しとくよ。 お前こそ、そのたちゅのりだかなんだかから出ていけば、消さずにすましてやるよ」

「……青二才がっ!」

 俺のちょうど背後で、霧が収束し、空気中に右手が生え始める。

 実体化だ。

 ヤツは、その実体化した右腕を振りまわし、俺の延髄あたりを狙ってくる。

 しかし、俺の方がほんの少し早かった。

 その場にしゃがみ、攻撃をいなす。

 そして素早く立ち上がり、実体化した手を思いっきり引っつかむ。

「捕まえたぜ、これで終わりだ」


















      後書き


 生きてますよー(挨拶)

 どうも、またまたご無沙汰だったzokutoです。

 相変わらず自堕落な生活をしてますぜ、イェイ。

 自堕落ですが、暇がないのが欠点なんです、ウォウ。

 と、ちょっとハイテンションでスガ、当方元気です。


 さて、それでは今作ですが『ミスってません』

 意味不明なところで終わってますが、決して操作ミスはしていませんです。

 GS試験から原始風水盤までの間のユキリンの仕事風景なので、始まりはダラダラと、終わりはパッと終わらせるといった感じを目指して書いたので、こんな風になっちょるのですよ。

 内容は……微妙だ(汗



 ちなみに、zokutoが好きな『タイトルをパロる』は今回も行われています。

 はてさて、気付いた人は居るかな。



△記事頭
  1. タイトルの元ネタはさっっっぱりです!!!(いばるな!!)

    あの時期のユッキーですか〜。考えなしなんでしょうな〜。そして金欠、と。
    ユッキー自身も言ってますが、馬鹿息子についてるとは思えないほど強い守護霊ですね。どうりで依頼が「守護霊を断ち切ってくれ」になるわけです。オカルトにちょっとでも関わればこんなごっついのがついてるのは気づかないわけないですもんね。激しく歪んでるけど。
    親に頼りっきりのこいつと、死んだ母のために強くなろうとする雪之丞。勝負は見えましたね。
    九尾(2004.11.23 23:52)】
  2. 裏世界っすか。多分、俺が一生触れることがなさそうな世界ですね。
    でも、依頼料が400万円ってのは少なくないですか?
    ま、俺が知っているGSの相場の基本が美神除霊事務所なんですけどねw

    >やらせはせん、やらせはせんぞー
    ジオン公国に栄光あれーーーw
    水カラス(2004.11.24 03:43)】
  3.  守護霊のご老人が何かいいキャラって、感じですねえ。親バカですが(爆)。
     さて、ユッキーがどんな闇を体験して、そして光(横島たち)に再会するのか、続きを楽しみにしております。
    リーマン(2004.11.24 06:43)】
  4. ひげよさらば?
    しかし、ためにならなそーな守護霊だなぁ…バカやっても報い一切ナシを繰り返してバカ息子になっちゃったんだろーに。
    MAGIふぁ(2004.11.24 07:27)】

▲記事頭


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