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「せめて異なる可能性を・8(GS)」け〜ご (2004.12.02 03:04)

横島忠夫

僕が魔界から留学生として妙神山に来て初めて出会った人間。
彼は不思議な人だ。

自分もそう多くの人間と関わってきたわけではないが、これは間違いないだろう。




例えば朝

僕が廊下を歩いていると横島さんの姿を見つけた。

吐く息は荒く、目は血走っている。
柱に隠れ、顔だけを陰から覗かせ、中庭を挟んだ向こう側を凝視している。

はっきり言おう。

怪しい

怪し過ぎる

「横島さん…何をやってるんですか?」

声をかけられてようやく僕の存在に気付いたのかこちらに顔を向けてくる。

「おぅ、ジークか。邪魔だからあっち行ってくれ」

手を振り、しっしっと僕を追いやろうとする。
中庭の向こうは小竜姫の部屋だった筈だ。

なるほど…
「覗きですか、懲りませんね…また酷い目にあいますよ?」

一応忠告だけしておく。

「男にゃ、やらねばいかん時があるんだ。黙っててくれ」

小竜姫様の着替えを覗かずして何が男か、と訳のわからない事いい、再び覗きを再開する横島さん。

『私からもやめる事を推奨するぞ。大体おぬしが見つかってとばっちりをうけるのは私なのだ』

心眼も大変そうだ。

目でお大事に、と心眼に挨拶してからその場を立ち去る。
しばらく歩いた所で背後から何かが刺さる音と横島さんの悲鳴が聞こえたのは、多分気のせいだ。




例えば昼

妙神山内にある異空間修行場で横島さんを見つけた。

「ほれほれ、もっと気合いいれて霊出力をあげんと潰れるぞ」

斉天大聖老師が巨猿の姿となり、横島さんの上に座っている。

「こなくそぉぉぉ!」
叫びと共に恐ろしい程の霊力が横島さんに漲っていく。

その力は魔族である僕ですら驚愕する程のものであった。
もはや人間を超えた力だ。

「その調子じゃよ小僧、ガンガン出力あげて霊力中枢に負荷をかけてやるんじゃ」

「これ以上は無理じゃ〜〜!」

「何を言っとるか、まだまだ重くする―」

あ、潰れた。

「……小僧ーーっ!」





例えば夜


夕食の席を四人で囲む。

「小竜姫様、美味いっス」

目の前に置かれた中華料理の数々。
これら皆全て小竜姫によって作られた物だ。

「こらっ!クソジジイ俺の料理までとってくんじゃねぇ!」

神界屈指の実力者をクソジジイ呼ばわり。
信じられない事だ。

「ふん、食事とは戦いじゃよ小僧。油断する方が悪い」

壮絶な箸戦を繰り広げる両者。
瞬く間に料理が消えていく。

「まだ沢山ありますからそんなに慌てないでくださいな」

呆れた様に二人をたしなめる小竜姫。
僕と視線があうと諦めたように苦笑していた。





結局の所、横島忠夫という人間は変なのだ。

何度も呆れるような愚行を繰り返しても諦めない精神。

人として規格外のスペック。

神を神とも、魔を魔とも扱わぬ神経。

全てが変であり、そして…心地良いものであった。

老師の作り出した世界で過ごした一年間。
決して疲れる様なものでもなかったし、むしろ穏やかで楽しい日々であった。

愚かで変で不思議、それでいて近くにいるものを穏やかな心持ちにしてしまう。

それが僕が横島忠夫と呼ばれる人間に対して下した評価だ。
そんな人間と長く接していたからだろう。
僕も少々おかしくなってしまったようだ。




「横島さん、ナイフを貸してくれませんか?」

今日は横島さんが妙神山から出ていく日。
なんでもGS試験とよばれる物を受けるために今まで修行を重ねていたそうだ。
そして小竜姫も付き添いとして一緒に行くらしい。

魔界の強行派の連中が人界に手を出そうとしてるとの噂を聞き付け調査をするようだ。

残念ながら僕が行くと魔界の中での穏健派と強行派の仲が致命的に壊れる可能性があるので行けないのだ。

「おぅ、いいけどどうするんだ?」

不思議そうな顔をしながらナイフを渡してくれる横島さん。

僕はナイフを受けとると自らの手を切り付け、血をナイフに吸わせた。

「なっ…何やってんだジーク…」

驚いた様に声を発する横島さん。
だが驚きたいのはこっちだ。

魔族が人に対して無償で力を授けるなんて聞いた事がない。

「其に魔の血の洗礼を…」

ナイフが呪とともに血を吸い込み、その輝きを増す。

「これで少しはこのナイフの格が上がった筈です。友人への僕からの餞別ですよ」

ナイフを返す。
受け取った横島さんは暫くきょとんとしていだが、すぐに有り難う、と礼をいってくれた。

「それではお元気で、横島さん」

「ああ、ジークも元気でな」

手を振り合う。

次に何時会うかはわからない。

もしかしたらもう二度と会う事はないかもしれない。

それともすぐに再会の時は訪れるかもしれない。

そんな事はわかりはしない。

だが、初めての人間の友人。

彼の祝福すべき旅立ちなのだ。

ならば細かい事は気にせずに笑顔で見送るべきだ。

彼の姿が見えなくなるまで僕は手を振り続けた。










美神さんから横島さんが戻ってくると教えてもらった。

横島さんが修行に行くと言って事務所を出て行ったのは一年くらい前の事でした。
その間事務所が壊れてしまったりして色々大変な事がありましたが私たちは元気にやっていました。

美神さんも人手が足りないとぼやいていた癖になんだかんだと言いながら誰も雇わずに横島さんを待っていたようです。

「美神さん、横島さんはまだですかね?」

「もう、おキヌちゃんがその質問するの四度目よ?…そんなに横島クンが帰ってくるのが待ち遠しい?」

初めは呆れたように、最後は悪戯っぽい表情をして美神さんは答えてくれた。

「えっと…はい…」

なんだか恥ずかしいです

「なんか小竜姫様も来るらしいし、またなにか厄介事なんでしょうねぇ」

美神さんが面倒臭げに溜息をついた所で人工幽霊が語りかけてきた。

『美神オーナー、来客のようです』

「ほら、お待ちかねのが来たわよ」

開けてやんなさい、と指し示されたドアへ向かった。

鍵を開ける。

ドアを開く。

「おかえりなさい、よこし―」

「美っ神さ〜ん!再会のキスをぉぉぉぉっ!」

突進、そしてカウンター。

「ぶべらっ!」

「アンタは帰ってきて早々にそれかっ!」

神通根の直撃を受けて吹っ飛ぶ横島さん。

久しぶりのこの光景。

なんて懐かしく、落ち着くんだろう。

今、確かに横島さんが帰ってきた事を実感した。




「メドーサがGS試験に…?」

横島さんを叩きのめした後に美神さんは小竜姫様となにやら難しい話を始めました。
私はする事がないので横島さんの看病です。

「ええ、自分の手の者をGSにして、悪魔や魔族に敵対するGS達を掌握しようとしているのです。」

「あんの年増ババァ…やる事が陰険ね…。それで、私に何をさせようって言うの?」

「メドーサの手の者がGSになるのを阻止してほしいんです。尚且つメドーサが手を出していたという証拠を立件できれば…」

あれ?横島さん…神通根の直撃をうけた筈なのに無傷だわ。
濡れタオルで血を拭ってあげようと思っていたが必要ないみたい。

「横島さんが出るのですから大部分は阻止できる筈です。だから美神さんにもGS試験には出てもらいますが、情報収集の方に力をいれてもらいたいんです。」

「ちょ…コイツそんなに強くなったって訳?ただの丁稚よ?」

「いえ…横島さんの力は相当な所まで上がっています。」

横島さんの顔つき、体つきを良く観察してみる。
今まで気づかなかったけど…凄い。
一年前までは普通の男の子だったのに、なんだか今は体が引き締まってて、顔つきも精悍になってる。

「横島クンがねぇ…っておキヌちゃん何やってるの?」

「え…な…何でもないですよっ」

いきなり声をかけられた。

思わず飛び上がってしまったので美神さんが不審な顔をして見ている。

横島さんの顔に見入っていた事に気づいてなければいいんですけど…

「ま、いいわ。おキヌちゃんソイツ起こして、試験会場行くわよ」

立ち上がり颯爽と事務所を出て行く美神さんを見届けてから横島さんの体を揺する。

「横島さん、横島さん」

残念、すぐに起きてしまいそう。

「ん…んぅ…?…おキヌちゃん?」

うめきながら、少しだけ寝ぼけた顔で目覚めてくれました。
美神さんの攻撃くらったのに怪我もなく寝ているなんて凄い神経ですね。
少しだけ驚きます。

「はい、お久しぶりですね横島さん」

「ああ、ただいまおキヌちゃん」

続いて、美神さんは?と聞いてくる横島さん。

「もう出発の準備をしてますよ。ほら、横島さんも…」

「そうだな、遅れたらまたシバかれそうだしなぁ」

立ち上がる横島さんの体をはらってやる。
地べたに転がされていたので軽く汚れてしまっているのだ。

「おキヌちゃん、サンキュ。行こっか?」

「はいっ」

横島さんの後ろについて、事務所のドアをくぐる。
一年前と同じ。いつもこんな風に事務所から出かけていた。
だけど…違うものがただ一つ。
前に見える背中は確かに広くなっていた。







試験会場の入り口を埋め尽くす人、人、人。
だれもが何かしら霊能力を持っているようで、幽霊である私にはピリピリして少し居辛い。

「スゴイ人ですねぇ」

思わず口に出てしまう。

「そりゃそうよ、受験者数1852人。この後の一次試験で128人まで振るい落とされて、最終的に合格するのは32人になるのよ」

1852人で、合格が32だから
ひい、ふう、みい…

「60人に一人しか合格しないんですか…狭き門なんですねぇ」

そうね、と頷く美神さん。
その手にはやたらと大きいバッグがぶら下がっている。

「美神さん、それ何ですか?」

「え?ああ、仕事で使うのよ」

さっき小竜姫様と話していた事に関係しているのだろうか?
当の小竜姫様は唐巣さんに用があるようなので、美神さんとの話が終わるとさっさと行ってしまわれた。
横島さんも近くにピートさんに見つけるとそちらの方に引っ張られてしまったし…

「美神さん、そろそろ入場みたいですよ」

「ええ、わかったわ。それじゃあね、おキヌちゃん」

そうして大きな荷物を抱え、会場へ向かう美神さんを私はフワフワと浮かびながら見送った。




美神さんを見送ってから暫く後、見学者の入場が始まった。
幽霊である私を見つけると凄い目で睨みつけてくる人がいたりして怖かったです。

そんな中を飛びながら観客席へ向かいます。

見学者の入場は一次試験が終わってから始まったので、
横島さんが無事に合格していればそろそろ試合が始まるはずです。

ちょっと人にきいてみましょうか。
「すいませーん、試合って後どのくらいで始まるんですか?」

「ああ、後5分くらいなワケ」

よかった、親切な人で…
と、目の前の人をよ〜く見てみる。

「あ…!?」
「あ…アンタ、令子ん所の!?」

小笠原エミさん、美神さん曰くの商売敵でした。

「あの…エミさんは一体なんで此処に…?」

誰かの応援にでもきたのだろうか?

「ピートの応援に…って言いたい所だけど違うワケ。仕事なワケ」

「大変ですねぇ。あ、試合始まりますよ」

試合会場の方を指差す。
続々と一次試験合格者が会場に入り、それぞれの試合会場へ向かっていく。

あ、横島さんもいた。良かった…

一年間も横島さんは頑張ってきたんです。

きっと…次の試合も大丈夫ですよね?








<後書き>
もう駄目です。出番の無い二人視点で書いてみたらこんなものに…
練習がてらにチャレンジしたのが悪かったのか…(そんなものを掲示板にあげてゴメンナサイです)
まったくもって未熟です(泣
ちょくちょく出てくるナイフ強化は今後のお話の為でもあります。
最近は進行予定表と睨めっこしながら暮らす毎日だったりします。
そんな中での悩みは中々横島らしい横島が書けない事、同じくらい他キャラも書ききれてない事です。
頑張らなければいけない課題であります。
それでは…次回も多少遅くなりますが、頑張りますね。



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△記事頭
  1. ジーク、良いですね。やっぱり横島くんの評価って言ったら、そうなりますよね。友人として。無償で力を授ける・・。横島くんと接していればそうなって当然だよなぁ、とか思ってみたり。
    そしておキヌちゃん達・・。もう一年経ってましたか・・。それでもやっぱり横島くんと美神さんのやり取りは相変わらずで。安心しますよね、何か。
    柳野雫(2004.12.02 05:26)】
  2. ジークフリードの洗礼付妖刀…なんだかメドーサに致命的なことになりそうですね…小竜姫様にも効きそうだけど…

    そういえば、この時点でタイガーとは面識が無いわけで…
    タイガーの立ち位置が大分変わりそうな気がします。

    次回以降のGS試験本戦が非常に楽しみです。
    矢沢(2004.12.02 09:32)】
  3. パイパーが終わってたからピートは知ってますけど、タイガーは出会ってませんね〜。どうやってセクハラの虎を乗り越えたのやら。
    妙神山での生活は、ジークだけでなくみんなが楽しかったと思います。修行者が来なくて退屈するようなとこだと管理人が直接言ってたようなとこですからね〜。そこに横島が入ったんですよ?そりゃあ、今だかつてないくらい愉快な日々だったことでしょう。
    なんとなくですが思いました。小竜姫さまや心眼からすればこのGS試験、自慢の弟子&主の初披露目って感じなんじゃないでしょうか?横島っていいとこを知ってる身から見ると、それを見せ付けてやりたくなる人種って気がするんですよね。これが俺たちの自慢の横島だー!って感じで。俺がそう感じてるだけかもしれませんが。
    九尾(2004.12.02 11:10)】
  4. やっぱり美神が出ると張りが違いますね〜もちろんかっこいい横島はは好きですけど、美神の姉さんの活躍も期待したいです。

    そして横島はもうすでに小竜姫様より強い気がするんですがどうなんでしょう?
    メドーサも倒して歴史を根本から変えちゃうんですかね〜?
    まあ、なんにせよ横島がかっこよければ全てよしですけどね〜w
    pantokun(2004.12.02 18:55)】
  5. 「太陽剣グラムの使い手で竜殺しの北欧の英雄」であるジークフリードの血の洗礼・・・・・・・・
    ここのジークがジークフリードかどうかは知りませんが、もしそうならすごい効果がありそうですね。メドーサも竜族ですし。
    まさのりん(2004.12.02 19:41)】
  6. 魔族の血の洗礼を受けた、呪われているナイフですか、常人が持ったら発狂しますね。
    ある意味、呪いのアイテムとしては最高級でしょう。
    ナイフの更なる暗黒化を望みますね。
    咎人の剣“神を斬獲せし者”ぐらいに強くならないかなぁ(元ネタ、ヴァルキリープロファイル)
    嗚臣(2004.12.02 22:28)】
  7. ジークの血で洗礼されたナイフですか…元々いわく付きのモノだけに、相乗効果でトンでもないアイテムになったりしそうですね。

    …もしかして、GS試験での、対メドーサ戦への布石かなにかだったりしますか?
    偽バルタン(2004.12.03 01:59)】
  8. …ふと思ったんですが。
    横島、アイテムの個数制限に引っ掛からないでしょうか。
    心眼とナイフ、両方持ってったりしたら…。
    いやナイフは素直にカッコイイんですけど(^^;
    WEED(2004.12.03 02:06)】
  9. そう言えば原作で、バンダナに反応してる人って殆どいませんでしたけど何故でしょう?
    横島の今の実力だったら、GS試験ぐらいならナイフ使う必要ないような?
    或いは、心眼のアドバイス必要ないかも?
    ってか一人だけ色々な意味でレベル違いますね〜。
    .(2004.12.03 09:29)】
  10. 魔族の洗礼を受けたナイフを手に入れた。

    な、メッセージが出てきましたね。
    今後、このナイフにいろんな人(神族・魔族・妖怪)が力を授けていって最強武器になるとか(藁
    ところで、試験での対戦相手は変わるのでしょうか。
    原作と横島が変わっているので、ちょっと変化があるのかな?
    水カラス(2004.12.03 09:50)】

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