横島育成計画・本章３４（ＧＳ）

それは、波乱の幕開け・・・だったのだろうか？

霊力量による一次試験を、突破して、
残った１２８名によるトーナメント形式の二次試験。

一日目の第一試合で早くも、６４名、半数に絞られるのだ。
そして、その対戦相手は運によって決まる。ラプラスのダイス。

ピート、タイガー、忠夫。
この三人の中で、最初に試合があったピートは、

立ち上がりこそ緊張でがちがちだったものの、
相手の攻撃を受けて、吹き飛んだあと、

「ピートさんは、ここまでの男だったんですノー」

タイガーの声が聞こえた気がした。

それでなにかが、プツンと切れたのだろう。

そこからが圧巻だった。

「ボクは神に愛された麗しきダンピールだぞ！！
　こんなところで、ボクより醜い男に負けるかぁ！」

とか、なんとか・・・

ナルシス・モードに突入して、
高笑いしながら、相手をボコリにボコった。

会場中の女性たちの黄色い声援が、

一部高まり、一部静まる。

まあ、趣味の問題だろう。
ただ、男たちのブーイングを集めたのは確かであった。

そのうち、君の心はガラスのように繊細だね、とか言い出すかも知れない。

そして、タイガー。

対戦相手はなんと、・・・・・・ドクター・カオス！

「タイガー！　そんなボケじいさんに負けたら、呪うわけ！」

エミの「温かな」励ましに押されて、結界内へ。

「対するはヨーロッパの魔王、ドクター・カオス！
　人類の至高の頭脳は、どのような戦いを見せてくれるのでしょうか！」

興奮した実況の声が響く。が、

「ま、カオスが相手なら楽勝よね」

「今は単なるボケじいさんだしね」

「そもそも、あの結界内って、マリアの物理攻撃、意味ないんでしょ？」

タマモや令子など、
カオスをよく知っている観客たちは冷めたものだった。

「ドクター・カオスはボケじいさんでも、
　連れてる機械人形は侮れないあるよ」

解説は、厄珍堂店主、厄珍。

顔が広いというか、なんというか。
どういう経緯で、この会場に呼ばれたのであろうか。
誰か、理由を教えて欲しい・・・。

観客席で、ボーっと試合を見ていた忠夫は、
ふと、見た覚えのある顔の少女を見つけた。

「もしかして、テレサか？」

「あら？　あなたは、お兄様！」

「お、お兄様ぁ！？」

起動したテレサに直接会ったことはないが、
製造過程は、何度か目にしたことがあった。

「わたしを造ったドクター・カオスがお祖父様。ドクター冴子がお姉様。
　そして、協力者のあなたが、お兄様。おかしい？」

「いや、まあ・・・・・・そう、呼びたいなら、いいけどな」

戦闘データや、戦術思考、
あるいは、体の動かし方など、
テレサを造るのに必要なデータを集めるのに、
一部、忠夫が協力していたりする。

まあ、協力したというよりは、させられたのだが。

たとえば、体のあちこちに電極みたいのをつけて、
マリアと戦わされたり、
何十キロかの重りをつけて、マリアと戦わされたり、
変わった設定の限定空間でマリアと戦わされたり、

人に頼まれると、断るのが苦手な忠夫、
いいように使われてしまったと言える。

おかげで、マリア対策だけは、ばっちりだ。が、
もし、本当にマリアと試合することになっても、
絶対に、カオスだけ狙ってやろうと心に誓う忠夫であった。

そして試合は、タイガーの試合は、

霊波キャノン！
「なんで、ロボットが霊波砲を撃つんじゃー」

霊波ウィップ！！
「ちょ、よ、四本もずるいですジャー」

対霊波コーティング。
「な、なんで、攻撃が効かんのジャー！」

なんだか、一方的だった。

そんなタイガーに、応援がとぶ。

「タイガー！　精神感応をちゃんと使うわけ！」

という雇い主のエミからだけでなく、

「マリアじゃなくて、よぼよぼじいさんを狙ったらいいんですっ」

おキヌちゃんからもだったりする。

「がんばってください、タイガーさん！」

ぼろぼろだったタイガーが、ダウン寸前だったタイガーが、

復活！！

「わっし、わっし、おなごに応援してもらうの初めてジャー」

おキヌの声が聞こえたらしい。
流れるのは歓喜の涙か？

うおー！！

結界内が一点の光りもない闇に閉ざされる。
タイガーの精神感応による暗闇だ。

が、

「マリア、相手の位置はわかるか？」

「イエス、ドクターの右、四十度、まっすぐ来ます」

「ふむ」

カオスはともかく、マリアに対して効き目はない。

それでも、今のタイガーには、強い味方がいるのである。

「そんなよぼよぼじいさん、吹っ飛ばしちゃってください！」

拳を握ったおキヌの声援にタイガーが反応。
可愛い女の子に応援され、男が負けるわけにはいかない。

否、負けるはずがないのだ。

うおーー！！

歓喜の雄叫びとともに、気合いが入り、集中力が限界まで高まるタイガー。

漢タイガーの怒濤の反撃が今ここに、

　バチバチバチッ！！

「いくら暗闇でも、声を出したら意味がないのう」

あっけなく、終わる。

怪光線が、仁王立ちしで叫んでいるタイガーを襲い、そして闇は消え去った。
コートを開いたカオスの体に魔法陣。
そこから攻撃が放たれたのであろう。

一応はまだ、立っているが、

漢タイガー、丸焦げ。ざまーみろ。
よし、ここでとどめに、精霊石弾頭ミサイルを・・・

「勝者ドクター・カオス！！」

・・・。撃つまでもなく、すでに事切れていたらしい。
もとい、気絶したようだ。
弁慶ばりの、立ち往生。もっとも、それを褒めてくれる人はいないだろうが。

しかし、もしかすると、本当に、カオスがＧＳ免許を得るかもしれない。
もしかして・・・・・・・・・初だろうか？

ちなみに、

「マリアが、霊波砲を撃つなんてね」

「精霊石エンジンに似た回路を持つのかも」

「ぎゃー！！　よぼよぼじいさんが勝っちゃった。タイガーさんのバカー！」

以上、ヴィーナス除霊事務所女性陣のコメントである。
もし勝っていたら、タイガー×おキヌフラグが、立っていたかも知れないのに。

「カオスのじいさんが勝ったか」

「予想どおりでしょ？」

「まあな」

「お兄様、次、試合ね。がんばって」

「おう。そうだ、こいつ預かっといてくれるか？」

み？　とテレサに渡されたのは因幡。

「お兄様のペット？」

「まあ、そんなもん。頼める？」

「わかったわ」

じーと、見つめ合うアンドロイドの目と、紅い眼。
目をそらさずに、見つめ合う。
見つめ合う。

「えっと・・・よろしくお願いします」

「み！」

アンドロイド・テレサ。
彼女が初めて使った敬語であった。

因幡、新たな子分を得る。

「次の試合は九能市氷雅選手　対　横島忠夫選手です！
解説の厄珍さん、どう見ますか？」

「むー、ええ体の姉ちゃんあるなあ。あの胸は多分・・・」

「いえ、スリーサイズではなく、試合内容の話です」

実況席の隣、

サングラスにヒゲのチビ、厄珍。
霊能に関しては博識であり、また見る目もある。
解説は結構、合っているのであろうか？

「お、そうだったあるな。あの姉ちゃんは、「くノ一」みたいあるな。
　きっと、武術・体術、かなりの実力者ある」

「では、九能市選手が優勢ということでしょうか？」

「いやいや、あの坊主、悪ガキあるが、実力はたいしたものある」

「では、横島選手が優勢だと？」

「いや、でも、あの坊主、バカあるからなー」

その厄珍も、忠夫がなにをやらかすかは、
予測できないのであった。

「予測できるとしたら、同レベルのバカだけある」

「ふふふ、よろしくお願いしますわ」

忠夫に向かって、やわらかに笑ってみせる九能市。
しかし、眼には明らかに鋭い光。

この姉ちゃん、侮れんなあ。

「はっ！」

思った瞬間、いきなり踏み込んでの居合い。
マントの中から鋭く迫る白い刃。

　シュッ！

それを少し、さがることで、ぎりぎりで躱す。

「あら？　おかわしになりましたね」

「そりゃ、躱すって」

当たったら、死にそうだし。
のど、むね、頭。
その後も、確実に急所を斬りに来る。この人、怖っ。

「うーん、居合いって、対戦するの初めてかも」

そう言いながらも、すいすいと躱す忠夫の表情には、
まるで真剣味がない。
いや、真剣なのかも知れないが、そうは感じられない。

捌きにくいなあ。
抜かれてからの方が対処しやすいかも。
居合いは慣れない軌道のうえ、この人の剣速が通常の二倍以上。

だから居合いは躱すだけにして、次の一撃を迎え撃とう。

頭上から迫る刃を、避けるのでなく、
踏み込んで、自分から近づく。
両手でをあげ、刃を両側から挟むように動かし、

「白刃取りあるか？　やっぱり目立ちたがりのバカある。
　慣れないことして、失敗すれば、死ぬあるな」

あの野郎、誰がバカだ！

厄珍の解説が聞こえて、一瞬、気がそれる。

その一瞬は命取り？

「その首、もらいましたわ」

九能市の霊刀ヒトキリ丸は、途中でとどまることなく、
完全に、下まで振り下ろされた。

　カチャン！

折れた刃が転がる。

忠夫の手は、左が掌底、右が拳。

「左手を添えて、拳で叩き折りましたのっ！？」

刀身を殴ると同時にかなりの霊力が放射されていた。

「くっ、でも刀はなくても戦えますわ」

バサッと、マントを脱ぎ捨て、
格闘の構えを取る。

ひらひらと、マントで視界をふさがれたはずの忠夫に向かって、
跳び蹴りを・・・

「いない！！」

しかし、そこに忠夫はおらず、
次の瞬間、脇腹に手が当てられるのを、九能市は感じた。

　ドン！　掌底！！

崩れ落ちる。

そして、そこが燃えるように熱い。

いつ、どうやって、移動したのかわからないですけれど、
刃をぎりぎりでしか躱せていなかったことで、
動きが遅いものだと思いこんでいましたわ。

「でも、まだまだ」

そういって立ちあがろうとするが、

「かはっ」

なにをどうされたのか、うまく霊力を練れない。
霊波を体内に叩き込まれることで、
霊脈が、霊力中枢が乱された。

そして、まともに立つことすらできず、そのまま静かに気を失う。

その様子を、興味深げに忠夫は見ていた。
この技・・・使えるかもかも？

横島選手勝利！！

「解説の厄珍さん。今の一撃、それほど強そうには見えませんでしたが、
　どうして、あっさりと気を失ったのでしょう？」

「んー、霊視ゴーグルで見た限りでは、
　最後の掌底の時、小僧の手の霊力だけが異常に活性化していたあるよ」

「活性化？」

「激しく燃えるような感じある。小僧本人だから抑えられても、
　いきなり他人の体に入れたりしたら、あの霊力、暴れに暴れるある」

「その霊力の激しさに耐えられずに気絶した、ということですか？」

「多分そうある。でも、どこであんなの、覚えたあるか？」

まあ、あの小僧だからできたある。
普通、あんなに霊力を圧縮できないものあるよ。
もうちょっとで、放電でもしそうな勢いある。
下手すれば、プラズマあるな。

盛り上がる会場。
しかし、勝者の忠夫はあくまで淡々としていた。

試合中も、高ぶることなく、
終わった今も、ただ、もどかしげに眉を寄せ、物憂げに息を吐くだけ。

そんなアンニュイ・モードの忠夫が、結界内から出ると、

次の選手とすれ違う。

「素晴らしい試合でしたわ」

眼鏡をかけたショートカットの女性。
腕の前で手を組んで、しなを作り、見つめてくる。

キラキラとか、擬音語をつけたくなるような、
一昔前の少女漫画チックなポーズと潤んだ眼。
それこそ、「お兄様ｖ」とかいうセリフが合いそうだ。

「・・・・・・何やってるんです、令子さん？」

「・・・」

両手を合わせたまま、固まるキラキラ少女。

「おーい？」

「・・・」

なんなんだ、いきなりブリッ子みたいに・・・少し、気味悪いぞ？

潜入捜査の一環なんだろうけど・・・

「令子さん？」

　シュボッ

いきなり、音を立てて顔を真っ赤にし、
結界内へと逃げ込む令子。もとい、ミカ・レイ。

恥ずかしいのを我慢して、演技してみたが、一目で見破られた。
喜べばいいのか、悲しめばいいのか・・・。
複雑な乙女事情である。

そんな令子を、忠夫は、なまあたたかい眼で見送ってさしあげたのだった。
あんな趣味があったのか、令子さん・・・・・・。

そして、その試合、

「なんのために、あんな恥ずかしい真似したのよ、わたしは！！」

「なにがなんだか、わからないけど、すみませーん」

呪符を合わせてつくったような神通ハリセンで、
一撃にして吹き飛ばされる大男。
照れ隠しというか、なんというか、激しい女性である。

とにかく、こうして、しっちゃかめっちゃかな第一試合は終わり、
続く第二試合からは、明日に行われる。

〔あとがき〕

わざと、少し淡々とした流れにしたのは、
忠夫くんの心理描写代わり。
彼の物足りなさを全体的に醸し出してみよう、みたいなノリ。

忠夫、アンニュイ♪

が、読み直してみると、いまいち。
淡々描写って、むずかっＣ。
いつものノリ突っ込み的描写（なんだ、それ？）の方が、書きやすいな。

ピート・・・今までのままじゃ、少し書きにくかったんで、
ナルシス・モードなるものを会得させてみました。
強くなるが、前後の記憶はなくなるという危険な状態。

でも、まるきりオリ設定ってわけじゃないですよ？
学校の七不思議、ピアノ霊相手に、ナルシスしてたし・・・。

次回は、第二試合ではなく、試験一日目終了後の様子をば。
少し動きがあります、っていうか、
忠夫ある意味、最強？
おまえは、ここになにをしに来た！って感じに・・・

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