▽レス始▼レス末
「除霊委員の事件ファイル5(GS)」犬雀 (2004.12.12 23:03)
シーン6 「ハッカパイプ」


「な?!愛子が犯人ってどういうことだよ!」

「ああっ。横島さん落ち着いてください。」

ピートはタイガーに詰め寄る横島を制止しつつタイガーに向き直る。

「タイガーも…。別に警察は愛子さんが犯人って言っているわけじゃないでしょう。誤解を生むような発言は気をつけてくださいよ。」

嘆息しつつ軽くタイガーをたしなめ、タイガーもその巨体を縮めつつ「すまんかったですノウ」と素直に謝罪する。

「ん?どういうことなんだ?」

横島がピートに問いかける。結局、校門まで着いてきていたシロも顔見知りである愛子のことが心配なのか真剣な目をピートに向ける。

「僕も詳しいことはわからないんですが…。昨夜、この学校で三年の女子生徒が校舎の三階から落ちて亡くなったらしいんですよ。」

そう言いつつ校舎に視線を向ける。つられて横島も校舎を見れば確かに三階には窓が開いている教室があり、その中では鑑識課員だろうか?警官が作業している様子が見える。
下を見れば立ち入り禁止のテープが張られた場所の周辺にも警官たちが歩き回っている。

「で?それが愛子とどう関係があるんだ?」

「愛子さんは第一発見者ってことで事情聴取を受けているんです。」

ああ、なるほどと納得する。

机の九十九神である愛子は学校が自宅のようなもんであったことを思い出した。
そういえばつい数日前に愛子とこんな会話をした。

「なあ、愛子」

「ん?なに?横島君」

「あ、いやお前ってさ。夜って学校に一人だろ?怖いとか寂しいとかないのか?」

「あのねぇ〜。私は学校妖怪よ。普通、あなた方の方が怖がる立場でしょうに…。それに暇なときは、宿直の先生とかとお茶したりしているからそれほど寂しくないわよ。」

そういうもんかと思っていると微妙に頬に染めて愛子が続ける。

「でも…ありがと…」

「ん?何がだ?」

「だって心配してくれたんでしょ」

「そりゃ心配だろ。女子高生と教師が一晩同じ屋根の下!「へっへっへっ可愛いよ。愛子クン…」、「ああっ。駄目です!先生!」、なんつーことになっボグウッ!!!!………」

横島の妄想、机による全力殴打によって強制終了。

会話の内容と同時にその時の痛みも思い出したのか、冷や汗をにじませる横島。
だが常勤宿直員ともいえる愛子が第一発見者なのは当然と言えるし、事情聴取を受けるのも当たり前のことだ。それに…

「そうだな。もし本当に愛子が疑われているんならオカGが出張ってくるよな。」

見渡してもオカGが出ている様子はない。心霊装備を持った警官がいる様子もないし、なにより西条がいればあの容姿である目立たぬはずはないのだ。

「あれ?横島さん知らなかったんですか?」

「何を?」

「最近はオカルトGメンの職員を各地の警察署に出向させる制度があるんですよ。」

「………なんでまたそんな危険な制度が…」

「危険?いやそれほど危険なことはないですよ。戦闘になりそうな事案の時はちゃんとGメンが出動しますし」

そりゃああの娘に戦闘は無理だろ…と心の中でうなずく横島に気づかず先を続けるピート。

「オカルトが一般の人たちに認知されたと同時に弊害も出始めたんですよ。」

「弊害ってどんなんですかいノー」

「ええ、犯罪者たちが「自分が犯罪を犯したのは霊に取り付かれたから」とか言い出したんですよ。」

「ハァ?」
「なんですかいノー、それは…」
「マヌケな言い訳でござるな」
「ハハハ。僕たち霊能のある側から見れば真実かどうかは一目瞭然ですが、そうでない人たちからすれば証明する方法はありませんからね。」

そう、当然のことだが「私が犯罪を犯したのは霊のせいです」なんて言い訳が通るわけがなかった。だが、横島の心に拭いがたい傷を残したあの大戦以降、事情が微妙に変わった。あの混乱の中で起きた大小様々な事件とそれに伴う民事・刑事裁判の中で「霊に取り付かれた可能性がないと証明できない以上、被告の行動は霊に取りつかれた可能性によるものと否定できない」という判決が出たのだ。もちろん無罪ではなく減刑という形ではあったが判例は判例。悪魔の証明を求めるようなこの判決は当然のことながら様々な議論を呼んだ。
しかしこれを契機として「精神鑑定」ならぬ「憑依鑑定」を求める弁護士が続出したのだ。これに対応するために警察・検察は容疑者を逮捕した際にそれが霊障によるものかどうかを判定する必要性が生じた。
しかし所謂霊能グッズを使用するためには使用者が霊能者である必要がある。
そこでオカルトGメンに鑑定依頼が殺到する事態になったが、いかにGメンと言えど全国津々浦々でリアルタイムに発生する犯罪すべてをカバーする能力はない。
そこで戦闘力はないが霊視能力のある民間GSや、オカGの職員を出向という形で各地の警察署に派遣するという制度が考え出され、そのテストケースとして数名の能力者が一時的にGメン職員との身分を得たうえで比較的霊障の多い地域に派遣されたのだ。

などとピートの説明を受けて「ほへー」と感心するシロ。
半分くらいは理解できたかもしれない。
タイガーは「もしかしたら次の試験が楽になるんじゃろか?」なんて考えている。

横島はと言えば…
「なるほど…鑑定だけならあの『万年お天気娘』でも務まるわな〜」などと唯が聞いたら泣きそうなことを考えていたりする。


「でも僕たちがここにいても何もできませんね。」とのピートの台詞に「ん、そだな」と気楽に応じる横島。
何しろこの事件のせいで学校は臨時休校になっている。実際、先ほどまで群がっていた生徒たちも三々五々散っていった。
愛子の事情聴取が終わるのはいつかわからないが、何か困ったことがあったら連絡してくるだろう。だったら事務所に行っていた方がいいかもしれない。

「俺は美神さんとこ行くけど、ピートとタイガーはどうする?」

「あ、僕もご一緒したいです。」とピート。なんでもおキヌちゃんに借りた古文の参考書を返したいということらしい。
(そういやピートは古文だけは苦手だもんなぁ〜。)と納得する横島。
タイガーも今日はバイトもないし愛子のことが気になるらしく同行を申し出る。
シロは師匠と顔を合わせている時間が増えて嬉しげだ。
念のため、校門の前に立っている警官に愛子への伝言を頼むと、気さくな人柄らしく快く引き受けてくれた。
もっとも横島が今朝、城南署にテロもどきを仕掛けた人物であると知っていれば対応も違ったかもしれないが…。

「んじゃ行くか」と「はい(でござる)(ですじゃ)」との声とともに若き霊能者たちはその場を後にした。











愛子は困惑していた…
警察官による事情聴取は朝から続けられていたが、これほど時間がかかるとは想像していなかった。
もっとも自分より先に聴取を受けた宿直の長井教諭も同じくらい時間がかかったのではあるが…
だが何より彼女が困惑したのは今、目の前にいる刑事の態度である。

パッと見た感じとても警官には見えないのだ。
一見、五分刈りとも見えるパンチパーマ。
太く鋭角的な眉とその下のこちらからは目がまったく見えないサングラス。
引き締まった頬、固く結ばれた唇。
限りなく黒に近い紺のスーツとネクタイ。
室内だというのに袖を通さずに羽織っている黒のトレンチコート。
そして圧倒的な威圧感。
どっからどうみてもヤバイ自営業の方である。
聴取の方も事情聴取用にと用意された生徒指導室に通され、「どうぞ」とイスを勧められ、「最初からお話ください」と言われ、時折、「で?」とか「ん…」とか言われるだけだった。
なるほどこれは疲れる…。先に聴取を受けた長井教諭が憔悴していたのもわかるというものだ。それでも何とか全てを話し終えることが出来たが、目の前の男は特に反応を示さない。ただこちらを見ているだけだが、それだけなのに抜き身の真剣を首筋に当てられたような気持ちになる。首の後ろに冷たい汗がにじむ。
横島く〜んと心の中で泣きを入れたとき、背後の扉をノックする音が聞こえた。

「入れ…」との男の声に「失礼します」と制服警官が入室し、ピシッと敬礼すると「黒岩警部、ただいま天野捜査官が到着なさいました!」と告げる。
「わかった…ここにお通ししろ…」と短く言うと目線を愛子に向け深々と頭を下げた。

「長い間お引止めして申し訳ございませんでした。本日はお引取りいただいて結構です。ご協力感謝いたします。」
そしてもう一度頭を下げる。

「え…は、はい…」
先ほどまでのことが嘘のように消えた威圧感に戸惑う愛子。
しかし黒岩はそんな愛子の様子にかまわず、部屋の隅で記録をとっていた制服警官に向かって「彼女を丁重にお送りしろ。」と命令する。

半ば呆然としながらも警官に促され部屋を出る愛子の視界の隅で、イスから立ち上がり深々と愛子に頭を下げる黒岩の姿が見えた。



愛子が去った後、黒岩は窓際に立ち校庭を眺めた。
胸ポケットをまさぐり煙草を探すが、ここが学校であることを思い出し自重する。
変わりにスーツの左ポケットから取り出したのは…

キ〇ィちゃんの人形つきハッカパイプ!!

お祭りの屋台などで売られているあれだ。
口にくわえ息を吸い込む。ハッカの香りが口内に広がって心地よい。
息を吐く…

プピ〜〜〜〜

どうやら吸い口は笛にもなっているらしい。

その時、トントンと扉をノックする音がする。

入れと入室を促すとGメンの制服を着た唯が入ってきた。

ピシッと敬礼!

「天野捜査官 まいりま「いつもどおりでいい」し…はい?」
「ここには俺たちしかいない。いつも通り『黒さん』でいいぞ。お嬢」

「は、はい」
敬礼していた手をだらりとたらす唯。
黒岩は窓の方を向き唯に背を向けて問う。

「会ってきたのか?お嬢」

「はい…」
うつむき力なく答える唯。

「で…?」

「はい。自殺と言ってます…けど…」

「けど…納得できないか?」

「は…は…い」
ますますうつむき力なく答える唯。その足の来客用スリッパのつま先にはポツンポツンと雨の雫が落ちる。

「お嬢…ここには俺以外は誰もいない。だから我慢しなくていいぞ…」

「は…ひぐっ…はい…うえっ…はいっ………」

黒岩は知っている。唯が城南署に来てから彼女と何度も現場を見てきたから…。
唯はよく泣く。コケたと泣き、ゴキブリが出たと泣く。

黒岩は知っている。

彼女が心底つらいときは、本当に泣きたいときは、必死に全身の震えを抑え、その桜色の唇を血が出るほど噛み締め、声を殺して嗚咽することを知っている。

ちょうど今のように…

そんなふうに唯を追い詰めた奴に、そんな唯の助けになれない無力な自分に、黒岩は侮蔑の思いを込めて息を吐く…

プピ〜〜〜〜

笛がまた鳴った…



後書き

うわ〜。理屈っぽい。反省しきり…
今回はギャグはほとんどなしです。
唯の出向理由、こじつけも凄いですがこんな感じになりました。
唯の能力が結果的に彼女を追い込んでいくんですね。困ったもんだ…

さて次回は美神事務所にて除霊委員たちが一同に集まります。
深夜の学校で何が起きたかもそこで明かします。明かせるといいな…


ギャグパート少なくなりますが皆様見捨てないでくださいませ。
では、恐縮ですが前回、前々回の皆様のありがたきレスに対しましてお返事をば。

>法師陰陽師様
騙してすみません。警官でした。ちなみに中々有能らしいです。

>柿の種様
萌えていただけて幸いです。保護欲をそそるのが彼女の真の力だといいかも知れませんね。

>紫竜様
確かに唯がいっぱいすると日本は危機です。

>黒川様
>イカ臭く
本人も生ゴミ臭いので相殺ということで…

>九尾様
どうも横島君は唯に煩悩を感じないようです。唯の方は…フラグ立つんでしょうかね?

>片やマン様
ありがとうございます。がんばります。

>シロガネ様
条件…何なんでしょ?今後ともいい方向に裏切り続けていければなと思ってます。

>水カラス様
出向理由は今回で…。無理やりですけど。
ちなみに彼女は武術はおろか逆上がりも出来ません。

>callman様
私はゴリっとしたことがあります。人知れずトイレで泣きました…

>九尾様
実は城南署には唯ファンクラブが存在してます。本人非公認ですが

>梶木まぐ郎様
今回はギャグほとんどなしです。でも見捨てないで下され〜(足にすがりつつ)

>シロガネ様
何とか除霊委員全員を活躍させたいと思います。でも…タイガーが影薄い…どないしょ










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△記事頭
  1. ハッカパイプでなくチョコ煙草ってのもいいかもw
    ちなみに実際に頭にヤのつく自営業の人を町で見たことありますがなにか?
    シロガネ(2004.12.12 23:58)】
  2. やはり横島は怒りましたか。でも言い方が悪かっただけでよかったです。伝言たのんだ人も取り調べた人も、いい人ばかりです。
    唯ちゃんには捜査に向いてる能力があるみたいですね。でも、本人が人間として向いてるかどうかは別問題、と。これはある意味横島も同じそうです。
    同じ学校の年の近い生徒が殺されたと聞いて、果たして冷静でいられるでしょうか?今はニュースの交通事故でも見たくらいのイメージしかないでしょうけど、詳しく事情がわかってきたら、ほとんど身内といっていい人間が殺されたわけですからね。そこらへん心配です。
    九尾(2004.12.12 23:58)】
  3.  タバコは男がため息をつくのを隠すための小道具と書いたのは
    誰だったか…
     それが薄荷パイプに代るとこ〜まで脱力系アイテムになるとは…
    こんな時間なんで爆笑もできず、腹をかかえて悶絶いたしました。
    つ、疲れた…あす早いのに…
    眞戸澤(2004.12.13 02:09)】
  4. あの刑事さんあの顔で良く怖がられること間違いなし
    しかもあのパイプ何故キ〇ィちゃんの何だ?
    余りにもミスマッチでかなり笑いました
    紫竜(2004.12.13 16:51)】

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