麻帆良学園学園長、近衛近右衛門は後悔していた。
「学園長先生!!何なんですか、彼は!?」
彼の目の前には、本来見目麗しい魔法先生、葛葉刀子が鬼の形相で迫ってきていた。目の色が比喩抜きで変わっている。危険信号だ。
その原因は、
「し、白。意外とかわいいのを…」
ゲシゲシゲシッ
余計な事を言って簀巻き半殺しから、元の形の分からない物へと変わっていた。
「お、落ち着け葛葉君。いくら彼でも死んでしまう」
元の形の分からない物、もとい横島忠夫は脅威の回復能力を持つ、と高畑から聞いていたが、死んでしまえばそれも意味がない。
そう思い止めに入ったが、
「いえ、この程度では唯の足止めが精々です」
鬼の形相のまま、すでに確信しているように答え、
「あー、死ぬかと思った」
元の形の分からない物は、何事もなかったかのように横島として立ち上がった。
簀巻きにされて彼女の足元に転がっていたはずだが、縄が葛葉の攻撃に耐え切れなかったらしい。
歴戦の学園長も流石に一筋の汗を流し、
「すでに何度も確認済みです」
更に汗を流させる台詞を耳にした。
『Go together 第一話』
「なにいってるんすか、いい女に声をかけるのは男の常識でしょう?」
何とか葛葉を鎮め、家に帰した学園長の、なぜこんな事になったか、との問いに彼はそんな風に答えた。
まるでこちらがおかしいかのようだ。
それと共に、先ほど簀巻きと共にドアを突き破りながら学園長室に投げ込まれた書類、葛葉の報告書に目を通す。
横島をとりあえず教師としたものの、最低限の常識は先に確認せねばならず、また条件をつめ契約するため夕方はつかわれた。
日が暮れ、今日、腕が立つものの中で比較的手のすいていた葛葉に、学園警備のレクチャーを頼んだ結果がこれだ。後悔したくもなる。
なんとか気を落ち着けて報告書に目を通すと、彼の良くも悪くも有能なさまに頭が痛くなる。
初対面で、
「ずっと前から愛してましたぁっっーー!」
そう叫び、手を取られた時には、神鳴流剣士の自分が対応できない動きに驚愕したが、
「おねさーん、僕と一緒にお茶でもいかがですかー!!」
見回りの最中にナンパをし(この時はまだ、とりあえず引っつかんでつれもどした)。
「どりゃぁーー!!」
学園に進入した鬼達の最大の者を、一太刀で切り捨てた腕には感心したが、
「おおっ、これはD、いやっそれ以上の…」
気を取られて切りかかられた自分を庇い、かかえて離脱しながら、どさくさまぎれに胸をもみ(流石に叩きのめした)。
「いたた…」
戦線復帰して残敵掃討する間に、合わせて全治数ヶ月はあるはずのダメージを修復したのには驚いたが、
「ぬおおおおぉぉぉ…、こ、これは…」
突然走り出した為、追っていった先で女子寮の風呂を覗き(初太刀峰打ちで喉をつぶし、声を上げられぬうちに血だるまにして離脱した)。
「大丈夫か!!」
自分には聞こえぬレベルの悲鳴を捉え(喉も含めダメージはすでに消えていた)、工学部の暴走ロボットから女生徒を救い出したのを褒めようとしたが、
「ではこのまま僕と、一晩のアバンチュールを…」
そのまま抱きかかえ、どこかに連れ去ろうとしたので半殺しにし、ボーッとなっていた女生徒を帰した。
その後もこの短時間でよくもまあこれだけの事を、と思う事柄が書かれていそうだが、
怒りの為か字が振るえ、歪み、紙を突き破り、読めないありさまだった。
彼女を常に沈着冷静な手練と思っている孫の護衛が、これを見たらどう思うだろう。
そんな事を考えながら、横島に聞く、
「君のとこではそれが常識なのかの?」
「当たり前じゃないですかっ!?」
もちろん違う。あくまで横島の常識だが嘘は感じられないし、流石に異世界の事まで分からない。横島も嘘をついてるつもりはない。
横島の世界では、こちらのフランス人やイタリア人が、さらに極端になってるような状態なのだろう。
魔法を隠す事と最低限の常識の確認はしたつもりだったが、流石にこんな事は予想外だった。
そんな、横島の世界の人々が知ったら、怒るか嘆くかしそうな事を考えながら話を進める。
「ふーむ、そうすると困ったのう」
「何がっすか?」
「君を教師にする事じゃ。こちらの世界じゃ生徒に手を出されると困るし、他に良さそうな職も空いていない」
彼を使うだけなら職はないでは無かったが、副担任にする時言った自分の言葉に縛られてしまった。
学園長の立場で朝礼暮改は、こんな事でやる訳にいかない。
「ああっ、それなら大丈夫ですよ。俺の世界でも生徒に手を出すのはタブーですし、俺、ロリコンじゃないですから。」
「ふむそれなら平気かの。あと、その他の女性に手をだすのも控えめにの。こちらの世界ではこれほど明け透けにはせん」
「あー、できるだけ気を付けます」
報告書を掲げる学園町に笑いながら答える。
出来る訳がないがココは頷くべきだろう。そして出来ることを増やすための言葉をだす。全ては煩悩ゆえにだ。
「ただ、俺の霊力の源は煩悩なんで、いくらかは認めてくださいね」
「ふむ、その辺はほどほどにの」
確かに密教の秘術や房中術関係で、そういった系統の術者がいると聞いた事があるし、異世界の事、加減は様子を見ながらせざるおえない。
横島のことをまだ理解しきっていない学園長は、そんな考えで横島の鎖を緩めてしまった。
この辺、短時間でも共に活動し、その方面を理解した葛葉がいたら、絶対に止められていただろう。
「では、今日はこのへんで終わりにしようかの。明日は、はやいしの」
「そうっすね。じゃ、また明日」
ひらひらと手をふって横島は出て行く。
ちなみに住居はまだ未定で、今日は宿直室に泊まってもらう事になっている。あのでっかいリュックも今はそこだ。
とりあえず横島関係の書類の、住居候補から女子寮近くを消していく。
この点はまだ住居を決めずよかったと、ほっと胸を撫で下ろす学園長だった。
翌朝
「そういうわけで、今日は早めに出ないといけないんです」
二人の同居人、神楽坂明日菜と近衛木乃香に、急に副担任が付く事になったと告げ、ネギは一人早めに寮を出た。
急ぐ為、電車ではなく杖で校舎に向かいながら、ネギは横島の事を考えた。
異世界から来たGSという名の退魔士、ファーストコンタクトは脅威の一言だったが、これから自分の同僚になる。
見せてもらった技だけでも強力な物を複数持つ高度な術者。性格はまだ理解しきれないが悪い人ではないようだ。
まだ彼の一端しか知らないネギは、横島をかなり高く評価していた。性格の事が無ければ正しいのかも知れないが…。
「横島さーん」
「おうネギ、おはよう」
「おはようございます」
校舎の影におり、学園長室前で横島に会う。
早めにきてクラスの事を説明する為、待ち合わせていたのだ。
「これから同僚だ。よろしくなっ」
「はいっ、じゃあ横島先生ですねっ」
元気良く返事をして二人で話ながら職員室へ向かう。
ネギの心は横島への好奇心と、新学期への心地よい高揚感であふれていた。
「「「3年!」」」
「「「A組!!」」」
「「「ネギ先生ーっ」」」
ワアァァァ、と声が教室の中から響き、ネギがHRを行う声が聞こえる。やがて彼の名前が呼ばれた。
「それでは、新しくこのクラスの副担任となった横島先生です。どうぞ」
のりの良いクラスなのか、盛大な拍手のなか横島は迎えられる。
因みに学園長の用意したスーツ姿、バンダナもはずしてオールバックだ。
横島自身は忘れているが、タダスケと名乗った彼自身を若返らせたような感じだ。
着替えはリュックに詰めていたが、動きやすいものばかりで教職には向かない。
「新学期からこのクラスの副担任になった横島忠夫です。これからよろしくお願いします」
教職という事を意識してか、彼らしくない口調で語り教室を見回す。
と、一通り教室を眺めた後、突然廊下へと駆け出し、
ドッコッーーーン
なにか凄い音が響いてきた。
あわててネギが様子を見に行くと、
「俺はロリコンじゃない、俺はロリコンじゃない、俺は……」
柱に頭を半分うずめ、繰り返しそんな言葉をつぶやく横島がいた。
おそるおそる肩を叩く。
「ネギッ!!」
「はいっ!!」
「ここは中学校で間違えないのか!?あんな中学生がいていいのか!?B90ある子もいるんじゃないのか!?腰つきだってボンだぞボン!?
俺はロリコンじゃないんだ。学園長とも約束があるんだ。答えてくれネギ!!こたえてくれよーーー」
「えぅえぅえぅ、は、放して横島さーん」
振り返ったとたん、逆に肩をつかまれ、血の涙を流しながらガクガクと肩を揺さぶられる。呼び名も戻っている。
横島は中学生と甘く見ていたが、3-Aには彼のストライクゾーンに入ってしまうスペックを備えた人物が何人もいたのだ。
しかし彼はロリコンではない、普通と違う物だが倫理観もあり、学園長との契約もある。
手を出したいが手をだしてはいけないというその葛藤は、リリスに知恵の実を差し出されたアダムのごときだ。
横島にとっての地獄がはじまる。
「いや、ごめんごめん、初めてなもんで緊張してな」
幾分軽い感じで帰ってきた横島の事を、生徒達は話しているが、彼の苦労と努力は尋常ではない。
文珠、『自』『制』を使い自分を抑えているのだ。
ネギも横島が再び教室に入る前、ポケットに手を入れ何かの強力な術を使ったのには気づいたが、その中身までは気づけない。
当たり前だ。普通そんな事に貴重な文珠を使わないし、使う必要すらない。それにネギは横島に頭をシェイクされ、まだくらくらしていた。
しかし毎回これを繰り返すわけにもいかない。かつてよりはるかに早くなったが、それでも文珠生成速度は1日1つ強。
『自』『制』の効果は感触からいって半日強。不足するのは明らか。
自力で耐えるようにできなければいけない。
「ネギ先生、横島先生。今日は身体測定ですよ。3-Aのみんなも、すぐ準備してくださいね」
「ああ、しずな先生。そうでしたね。皆、ここで身体測定だから先生達はでていく。そしたら上着脱いで準備しててくれ」
しかも効き過ぎて、横島的にとって飛び掛るべき美女、しずなが来ても飛び掛れない。彼を知る者なら不気味に感じるほど落ち着いた対応だ。
文珠の効果が切れた後、横島が後悔し必死に精神訓練を開始する理由もできた。しかし横島にとっては、この方がよかったかもしれない。
しずなは朝、紹介された時にいきなり両手を握られ、愛をささやかれ、かなり驚いていた。普通こんな事をされれば逆に嫌われる。
しかしこの様子を見て、やはり冗談だったのか明るい人だなと、横島の好感度を回復させていた。もちろん横島は気づかないが。
この少し前、エヴァンジェリンという名の生徒がネギと横島に鋭い視線を向けていたが、それぞれの理由で余裕の無い二人は気づけなかった。
教室の外で身体測定が終わるのを待っていると、和泉亜子が駆けて来た。
廊下は走らないなど、余り守られる事ではないがそれにしてもかなり慌てている。
「先生ーっ。大変やーっ、まき絵が…、まき絵がー」
「何!?」「まき絵がどーしたの!?」
「わあ〜〜!?」
仲間の危急を聞きつけ、生徒たちが下着のまま飛び出してきた。
ネギがまっかになり、それをみた一部の生徒が騒ぎ出し、まき絵の事を聞きだそうとする者と合わさってパニックになる。
「落ち着け、先生達が聞いておく。とりあえず教室にもどって服を着ておけ!」
横島が一括する。この状況では身体測定は続けられそうに無いので動ける状況を選択する。生徒もそれを聞いて静まった。
普段なら鼻血をふいて真っ先に騒ぎそうなこの男。本当にこのままの方がいろいろといいかもしれない。
ネギなど横島を尊敬の瞳で見ている。色々間違っているのだが。誰か彼に言ってあげて欲しい、教室に戻る前のことを思い出せっ、と。
話を聞き代表数名を連れ、残りの生徒に身体測定を再開させて保健室へ来ると、佐々木まき絵がやすらかに寝息を立てていた。
桜通りで寝ている所を見つかったらしい。横島は何か霊感に掛かる物を感じ、ネギと目を合わせるとネギも頷く。
まき絵に気が行っていたのか、声をかけてきた明日菜にようやく気づいたネギが、まき絵はただの貧血と説明し、生徒を解散させる。
その間にまき絵を精査した横島は、その体から以前自分が味わったものと、極めて似た気配を見つけていた。
「吸血鬼だな」
「吸血鬼、ですか?」
生徒の去った保健室でネギとまき絵の状態について話す。
「ああっ、俺も1度かまれて支配された事がある」
「ええっ、だ、大丈夫だったんですか!?そ、それにまき絵さんは!?」
「俺の時はそいつの息子が反旗をひるがえして解放、解呪してくれた。
まき絵ちゃんも日の光に対する反応からみて大丈夫だろう。吸血鬼化すると日光は天敵になるからな。血を吸われ過ぎただけみたいだ」
「よかったー」
ふうっ、と息をはくネギ。安心したようだ。
横島も自分の知る吸血鬼との違いがあるのだが、同種の気配から来る思い込みで気づかない。
あるいは美神なら油断しなかったかもしれないが、こういった方向には彼はまだまだ甘かった。
「しっかしこの学園、どっかに吸血鬼が潜伏してるのか」
「桜通りの吸血鬼!!」
横島のつぶやきにネギが気づく。
「桜通りの吸血鬼?」
「はい、クラスの皆がうわさしているのを聞いた事があります」
「場所もまき絵ちゃんの居た所と一致するな」
「はいっ」
考え込む横島、何かを決意した目をするネギ。
「よしっ、ネギお前は仕事終わったら帰ってろ。俺は学園長に今日の見回り、桜通りにしてもらってくる」
「えっ!横島先生、僕も行くよ!!」
「警備はお前の仕事じゃないだろ。それに吸血鬼ってのは結構手ごわい。そういう手合い相手にした事ないだろ、お前」
ネギが魔法学校の課題として先生をやっている事は聞いた。ならばまだ、その手の慣れがあるとは思えない。
少ししょげたのか、うつむいたネギを保健室に残して学園長を探しにいった。
夜の桜通り、横島は小学生位の男の子の後姿を見つけてため息をついた。
横島もその子も既に私服に着替えている。トレードマークのバンダナも復帰だ。
「こらっ、ネギ坊主!!」
「ひゃいっ」
びっくりして振り向くネギを横島はじと目で見下ろす。
「あっ、よ、横島さん」
またさんになっている。どうやら驚くと、先生とでないらしい。
「なーんで、こっこにいるのかな〜♪」
「ひゃ、ひゃひへはんは、ほふひほっへほはひひはへひほへふ(まっ、まき絵さんは僕にとっても大事な生徒です)」
にこやかにネギのほっぺを引っ張る横島に、ネギが何とか答える。目は決意の瞳だ。かなりアンバランスなまぬけさだが。
横島は、はぁ〜、と再びため息をつき、困ったように頭を掻いた。この様子ではもう1度言った所で聞かないだろう。しかるのは終わってからだ。
「しゃーねーな、じゃあ俺から離れるんじゃねーぞ。あんな簡単に後ろ取られるんじゃ、こっちが安心できやしねー」
「うん、ごめんなさい、横島先生。でも僕ほっとけなかったんだ」
「もーそりゃいい、それより油断すんじゃねーぞ。風が強い、気配を読みにくいし、さっきから霊感になんかびんびんきやがる」
そう言って横島が目を鋭くした途端、
キャアアアアッ
絹を裂くような女性の悲鳴が聞こえてきた。
「横島さん!!」
ネギが一瞬悲鳴の方に目を向け、横島に目を戻すと、
「ぬおぉぉぉーーー、おっ譲さーーーん。この男、横島忠夫、ただいままいりますーーー!!」
すでにそこに横島の姿は無く、ただ声だけが響いていた。文珠の効果はすでに切れているようだ。
自分から離れるなと言っておきながら、これは無いんじゃないか。杖に乗りながらネギは思った。少しは横島の認識を正しくしたようだ。
「またんかい、我っ〜〜!!」
その声に驚きながらもエヴァンジェリンは、宮崎のどかから離れ、すばやく氷楯を展開し、声と共に飛んできた光弾、サイキックソーサーを防いだ。
「ほう、もう来たのか。それに今の技、腕もたいした物だな、横島先生?」
獲物の宮崎のどか以外、付近に人がいない事は確認したはずだが早い。
それに今の飛び道具も、気の塊だったようだが、かなりの威力。何か知らないが教室に入る前、強力な術も使っていた。
ぺろり、と防ぎ切れなかったのか今の攻防で出来た傷をなめながら、今朝、新しく見つけたツワモノの顔に、エヴァンジェリンはニヤリとささやいた。
「俺を知っているようだが、お譲ちゃん誰だ?」
「……」
二人の間になんとも言えない空気が流れる。
長瀬、那波、朝倉、龍宮等といったストライクゾーン級(何がかは、いうまでもない)はもちろん一目で、神楽坂明日菜、近衛木乃香らネギの周りの人間も覚えたが、
流石に朝一回り見た後、すぐあの騒動ではクラス全員は覚え切れない。
金髪碧眼で目立つはずのエヴァンジェリンも、横島的には優先順位が低いので当然覚えていない。騒動の原因からすれば彼女自身のせいでもある。
闇の福音と呼ばれた彼女のプライドにひびを入れる、びみょ〜な一撃だった。
「僕らのクラスのエヴァンジェリンさんです」
横島に、わずかに遅れて現れたネギが答える。
「そ、そうだ横島忠夫。私はエヴァンジェリン、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、吸血鬼の真祖エヴァンジェリン、15年前までは六百万$の賞金首だったエヴァンジェリン、人形遣いエヴァンジェリン、不死の魔法使いエヴァンジェリン、闇の福音エヴァンジェリンだ。良く覚えておけ!!」
覚えられていなかった事が何気にショックだったのか、まるで選挙のように己の名を繰り返しさけぶエヴァンジェリン。
自分の名が呼ばれて少しうれしそうだった。
「ああ、わかったよエヴァンゲリ○ン」
「ちっがーーーーう!!エヴァンジェリンだとゆーとろーがぁ!!」
背後に紫色の鬼のような幻想をまといエヴァンジェリンは吼える。もう少しシンクロすれば暴走しそうな気配だ。
「わっかた、わかった。エヴァンジェリンね。もうおぼえたよ」
「よし2度と間違えるなよ、エヴァンジェリンだからな」
「ああ、じゃ、また明日な。いくぞネギ、明日も早いんだから早く帰って寝んとな。エヴァンジェリンも早く寝ろよ」
「ああ、そっちもな横島先生」「は、はい」
そう言って宮崎を抱え、きびすを返す横島に、
「「てっ、ちょっとまて〜〜!!」」
「エヴァンジェリンさんを捕まえて話をきかないと!」
「そうだ横島!!ここはお前たちが追ってくるべきところだろ!?」
あやうく帰りそうになったネギとエヴァンジェリンが声をそろえて叫ぶ。
エヴァンジェリンはすでに呼び捨てだ、仮にも寸前まで先生と付けていたというのに、頭にも井桁が浮かんでいる。
しかし横島は嫌そうな顔で、顔だけ振り返り、
「え〜、だって急いできたってのに、俺ロリコンじゃないからこの子ストライクゾーン外だし、だからってクラスの女の子をほっとけん。
それに吸血鬼の真祖なんて大物相手にしたくないし、幼女だし…。せめてムチムチボンテージの姉ちゃんだったら喜んで相手になったんだけど」
なんぞとのたまう。真っ当な物もあるが、ほとんどは警備や教師をする人間の台詞ではない。
ちなみに宮崎のどかも名前は覚えていないようだ。顔を覚えていた分エヴァンジェリンよりましだが。
「横島さん、退魔士なんですよね、本職なんですよね、逃げてどーするんですか。
それにエヴァンジェリンさんは僕たちの生徒ですよ。悪い事やってるんなら止めないと!!」
「誰が幼女か!!15年前まで賞金首だといったろ。それ以前にも何百年も生きとるわ!!
それに相手がムチムチボンテージの姉ちゃんならとはなんだ!!この忌々しい呪いがなければ今でもその姿でいるわ!!」
子供二人が息をそろえて怒鳴る。もはや対戦すべき相手と、足並みをそろえるべき相手が違ってしまっている。
特にエヴァンジェリンは、もはや何を口走っているのか自分でもわかっていないのだろう。かなりの情報がもれている。
「はあ〜、仕方ないなー」
「「何が、しかたないだっ(ですかっ)」」
横島の体が本当に嫌そうに再びエヴァンジェリンのほうを向く。ネギ達は顔をひきつらせたままだ。
しかし、
「いいだろう。ネギ、俺の戦いを見せてやる」
のどかをやさしく足元に横たえた横島の、この言葉で空気が変わった。突然冷たい空気をまとった横島に、エヴァンジェリンは反射的に下がる。
横島も両手を胸の前で開いて半身の構えをとる。二人を見たネギも慌てて横島の後ろに下がる。
「いくぞ」
静かに告げる横島に、二人の間の緊張感が高まり、横島の両手に霊気が集い始める。
「サイキック猫だまし!!」
パアァァァァンという小気味いい音と共に閃光と気の波、煙がエヴァンジェリンにおしよせる。
「めくらましかっ!?」
なまじその動きに注意していた為、もろに閃光をくらってしまった。魔力の感知感覚も気によって攪乱されている。
こんな状態であの光弾を食らえば只ではすまない、回避もこんな状態ではできない。やはり油断できる相手ではなかったのだ。
あのふざけた言動に紛らわされて忘れていたが、自分の氷楯を上回る一撃を放ってきたのだ奴は。
魔法薬のフラスコを構え、攻撃に備える。背中を冷や汗が流れる。緊張感を耐え忍び、感覚の回復を待つ。
やがて煙が晴れ始める。自分が相手ならここで攻撃をかける。どうしても安堵から緊張感が溶けてしまう瞬間だ。
だがそれは、並の相手ならばだ。百戦錬磨の自分は違う。この程度で読み勝ったと思うなよ、横島忠夫。
気を引き締め、逆に緊張感を高めて待つ。手の中のフラスコが汗で滑りそうになるのを耐える。
まだ攻撃はこない。沈黙の中、永遠のような時が流れる。
「?」
やがて煙が晴れクリアな視界が戻ってくる。そう誰も映らない程クリアな視界が…。
「に、に、逃げやがった〜〜〜!!」
ようやくそのことに気付いたエヴァンジェリンの絶叫が桜通りに響き渡った。
あとがき
第一話、ようやく生徒陣登場です。と言うか、女性陣。
横島の煩悩が動き始めました。
壊!は入れるかどうか迷ったんで、一応いれました。
プロローグのレス返しですが、プロローグ改訂前にレスを頂いた方の分は、
プロローグ改定版のあとがきにあります。
レス返しです。感想ありがとうございます。
>ひーさん
最強にしちゃうと逆に他のキャラと合わせられなくなってしまうので、あんな感じです。
能力隠し、女性出てきましたから、いつまでもつのやら(笑)
>八雲さん
はい、第一話、こんな感じでしたが、如何でしょう。